大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

来年の東京五輪の開催可否を判断する基準は? 大前研一氏の提言

 第一の基準は、日本が終息宣言を出せているかどうか、そこまで行かなくても新型コロナを「アンダー・コントロール」できていると言えるかどうか、である。

 大阪府の吉村洋文知事やニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事が感染抑止レベルの具体的な指標を設定したように、完全に終息していなくても一定の数値をクリアして感染拡大を「制御」できている、と誰もが納得できる状況になっていなければならない。

 第二の基準は、仮に日本が新型コロナを抑え込めたとしても、海外から大挙して訪れる選手とスタッフ、観客たちを国民が「ウェルカム!」と喜んで受け入れられるかどうか、である。

 バッハ会長は、観客数を制限して開催する可能性にも言及したそうだが、無観客や観客数制限で開催するとしても、外国の選手たちは時差や気候に順応するため、競技が始まる約1か月前に来日して国内各地のキャンプ地で事前トレーニングを行なう。終息宣言が出ていない国からも来日するかもしれない。それを地元の人たちが歓迎できるかと言えば、なかなか難しいのではないか。

 たとえば、これまでの夏季五輪メダル獲得数は1位がアメリカ、2位が旧ソビエト連邦(ロシアは12位)、3位がイギリス、4位がフランス、5位がドイツ、6位がイタリア、7位が中国だ。このうちアメリカは感染者数が世界で最も多く、州別に対応しているため感染状況もバラバラなので、新大統領が就任する来年1月の時点でも国として終息宣言を出せるとは思えない。

 中国の場合は、仮に習近平政権が終息宣言を出しても、WHO(世界保健機関)のテドロス・アダノム事務局長以外は世界の誰も信用しないだろう。ブラジルやメキシコなどの中南米諸国、インド、アフリカ諸国では感染拡大が加速しているし、欧州各国も予断を許さない状況が続いている。

 もし日本人が外国の選手や観客を歓迎できるのであれば、他の外国人観光客も再び呼び込めるはずであり、それなら1.7兆円もの税金を費やして「Go To キャンペーン」を来年まで続ける必要もない。

 こう考えてくると、私が提示した基準をクリアして来夏に東京五輪を開催することはほとんど無理と言わざるを得ない。五輪を目標にしてきた選手たちにとっては酷な結論だろうが、開催か否かがわからない状態を長引かせるのも問題だ。

●おおまえ・けんいち/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』。ほかに『日本の論点』シリーズ等、著書多数。

※週刊ポスト2020年9月4日号

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