真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

株高トレンドに歯止め? 市場はワクチンへの期待から効用見極める段階へ

 こうしたワクチンに左右される「ワクチン相場」の行方は、行動経済学によって読み解くことができる。これまでは、ワクチン開発への期待によって、市場の阻害要因をコントロールできると多くの市場参加者が思い込む「コントロール・イリュージョン」が働き、それが前述の「バンドワゴン効果」によって世界中に広まり、大きなプラスとして作用してきた。

 しかし、足元の感染拡大の状況がマイナスに作用しはじめたことで、市場の思惑は拮抗している。たとえるなら、チンドン屋が大型スーパーの開店を盛り上げようと派手に音を鳴らして宣伝してきたが、スーパーが開店すると今度は売られている商品ラインナップや売れ行きを見定めようという動きである。

 現実を見ていくと、ワクチンが実際にどの程度の効力を持つかは現時点では未知数であり、一部ではアレルギー反応も報告されている。まして、ここにきて英国で新型コロナウイルスの変異種が報告されるなど、コロナ収束への道のりはまだまだ遠いように思える。ワクチンの効果を実感するのに時間がかかるという現実に加えて、こうしたマイナス要因によってバンドワゴン効果にも限界が見えてきたのではないか。

 何より危惧されるのは、ワクチン開発があまりにも短期間に進んだことである。過去の歴史を見ても、政治の都合でワクチン開発が急速に進められた結果、深刻な副作用が発生したケースがある。1976年に米国で豚インフルエンザの感染が拡大した際、当時のフォード政権が主導して1年足らずでワクチンを開発。全国民へと接種を始めたが、顔や呼吸器官などに麻痺が起きるギラン・バレー症候群など重篤な副作用が報告され、中止に追い込まれた。

 あの時と同じような結果につながるとは想像したくないが、接種が始まったばかりのワクチンが確実に世界経済を正常化に導くと考えるのは早計だろう。世界中で集団免疫を獲得するためには、ワクチンを超低温保存する物流「コールドチェーン」の整備や、接種費用の負担をどうするかといった問題もある。もし重篤な副作用が報告されたりすれば、事態は暗転しかねない。少なくとも現時点で言えることは、株式市場を楽観的に覆っていたバンドワゴン効果は限界を迎えているということだろう。

【プロフィール】
真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。法政大学大学院教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。

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