大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

楽天と日本郵政の提携がもたらす“一石五鳥”の効果と大きな課題

楽天と日本郵政の提携で生まれるメリットと課題は?(イラスト/井川泰年)

楽天と日本郵政の提携で生まれるメリットと課題は?(イラスト/井川泰年)

 日本の携帯電話市場はNTTドコモ、au、ソフトバンクの3大キャリアが圧倒的に強い状況が続いていた。そこに第4のキャリアとして市場に挑戦する楽天モバイルが、日本郵政と資本提携した。この提携がどのようなメリットをもたらすのか。経営コンサルタントの大前研一氏が解説する。

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 楽天と日本郵政が資本業務提携を結んだ。楽天が実施する第三者割当増資約2400億円のうち約1500億円を日本郵政が引き受け、中国ネット大手のテンセント(騰訊控股)が約660億円、アメリカ小売り大手のウォルマートが約170億円を出資するという。このディールは非常に大きな可能性を秘めている。英語で言うところの「marriage made in heaven」(理想的な結婚)であり、うまくいけば、一石二鳥どころか“一石五鳥”になるかもしれない。「五鳥」を簡単に説明しよう。

(1)楽天は携帯電話事業参入により2020年12月決算で1141億円もの巨額赤字を計上した。藁をもつかみたい状況に追い込まれていた楽天の三木谷浩史会長兼社長は、日本郵政などの出資で一息つける。

(2)楽天は全国の郵便局約2万4000局を楽天モバイルの契約窓口や基地局の整備・拡大に利用できる。モバイル産業の調査会社MCAによると、NTTドコモ、au(KDDI)、ソフトバンクの実店舗数は約2200~2300で、楽天モバイルは10分の1の200余りでしかない。しかし、全郵便局に契約窓口を開設すれば、実店舗数は3大キャリアの10倍以上になる。基地局も郵便局の建物や敷地を使って容易に増やせる。

(3)「楽天市場」の懸案だった物流が強化できる。楽天は自前の配送サービス「楽天エクスプレス」の展開を進めてきたが、まだ最大のライバルのアマゾンに大きく後れを取っている。しかし、「ゆうパック」の物流網を使えば対抗可能になる。

(4)楽天はテンセントのモバイル決済サービス「ウィーチャットペイ」や、テンセントとウォルマートが大株主の中国EC大手・京東集団(※京東集団は、すでにドローンやロボットを使った無人配送で楽天と連携している)とのタッグで、かつて撤退に追い込まれた中国市場に再挑戦できる。アメリカでウォルマートと組み、アマゾンに対抗していくことも可能になる。

(5)日本郵政は「楽天市場」の宅配物を優先的に引き受けることでヤマト運輸や佐川急便に対して劣勢に立たされている「ゆうパック」の業務が拡大する。さらに、日本郵政の物流データと楽天が持っている顧客の購買データや需要予測を組み合わせることで、事業のデジタル化・合理化、コスト削減などを図ることができる。

 この五つが実現することで得るメリットは、日本郵政やテンセント、ウォルマートよりも楽天のほうが、はるかに大きい。今回のスキームは、楽天という“難破船”を日本郵政などが救助したようなものである。

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