大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

楽天と日本郵政の提携がもたらす“一石五鳥”の効果と大きな課題

郵便局の職員に楽天モバイルの窓口業務は可能か

 だが問題は、それらを実行に移して具体的な成果を上げられるかどうかである。

 たとえば、郵便局の職員に楽天モバイルの窓口業務ができるのだろうか? 私は至難の業だと思う。なぜなら、NTTドコモをはじめとする3大キャリアは15~20年以上、非常に苦労しながら窓口の顧客対応を現在のレベルまで引き上げてきたからである。契約に関する詳細な説明や苦情へのきめ細かい対応などが求められる窓口業務が、ただでさえ待ち時間が長い郵便局の職員にできるとは思えないのだ。

 楽天モバイルの社員を郵便局に派遣するという手もあるが、「社内用語を英語にして世界人材を」と叫んでいる楽天で育ったスタッフが田舎の郵便局にちょこんと座っている様は絵にならない。

 基地局も、たとえ2万4000か所増やしたとしても、3大キャリアには遠く及ばない。

 しかも、楽天モバイルの参入を受け、NTTドコモが「ahamo」、auが「povo」、ソフトバンクが「LINEMO」というオンライン申込専用の新たな格安料金プランを3月から提供した。そのように競争が激化している中で、これから楽天モバイルの事業が軌道に乗るかどうかは、極めて不透明だ。また、日本郵政の郵便事業の合理化や効率化も、ユニバーサルサービス(日本全国どこでも均一な公共的サービス)が前提では、なかなか難しいと言わざるを得ない。

 かつて日本郵政はオーストラリアの物流会社を買収し、2017年に4000億円もの特別損失を出している。その原資はもともと国の資産=税金だ。同じ轍を踏まないとは限らない。

 とはいえ、今回の提携で思惑通りの相乗効果が生まれれば、国民にとって悪いことは一つもない。全国津々浦々にある郵便局で携帯電話の手続きができるというのは過疎地の住人にとってはありがたい話だ。実際にそうなるのか、三木谷氏と増田寛也・日本郵政社長のお手並み拝見である。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『稼ぎ続ける力』(小学館新書)など著書多数。

※週刊ポスト2021年4月30日号

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