真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

際立つソニーの好決算 水をあけられたパナソニックとの明暗

環境適応力の差が浮き彫りに

 なぜここまで差が開いてしまったのか。その違いは行動経済学の「フレーミング効果」で説明できる。フレーミング効果とは、物事をある“枠(フレーム)”に当てはめて思い込むこと。両社の業績の差を見る限り、パナソニックの経営陣には“そこまで劇的な変化は必要ない”といった「先入観(フレーム)」があったように思えてならない。そこには「まだまだこのままで行けるはず」という「心の慣性の法則」が働いていたのかもしれない。

 環境の変化がもう少し緩やかな時代ならそれでも良かったのかもしれない。しかし、コロナの感染拡大によって世界は激変を迫られた。環境の変化のスピードは格段に早まり、変化に適応できる企業とそうでない企業の違いをコロナは浮き彫りにしたのだ。

 進化論を唱えたダーウィンは、「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものではなく、変化に対応できる生き物だ」という考えを示したと言われている。ソニーの創業者である井深大氏は会社の設立目的に、「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」「国民生活に応用価値を有する優秀なるものの迅速なる製品、商品化」を掲げ、この理念が“ソニーのDNA”として受け継がれてきた。

 パナソニックの創業者である松下幸之助氏も「日に新たな経営」という名言を残し、同社にも“DNA”として息づいているはずだ。コロナ禍のいまだからこそ、世界的な変化にどう対応していくか。企業もヒトも問われている。

【プロフィール】
真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。法政大学大学院教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。

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