田代尚機のチャイナ・リサーチ

新型コロナ治療薬「プロキサルトアミド」で脚光浴びる中国の創薬ベンチャー

前立腺がん、乳がん治療薬の研究を応用

 創業者である童友之会長が小分子抗がん剤の開発を目指し同社を設立したのは2009年3月。当時、中国にはバイオ医薬開発型のベンチャー企業はほとんどなく、それから数年の間は資金調達に四苦八苦したそうだ。

 2011年にはプロキサルトアミドが前立腺がん治療薬として国家技術重大専門プロジェクトに認定され、エンジェル投資家から1200万元(2億400万円)の資金を調達できたことで、研究が続けられたのである。

 2015年になると、去勢抵抗性前立腺がん治療薬として、アメリカFDAからプロキサルトアミドのフェーズI、フェーズIIの臨床試験が認められた。この前後からグローバルかつ、大規模な資金調達ができるようになった。

 2014年に投資ラウンドAとして2000万元(3億4000万円)、2015年には投資ラウンドB第1弾として、600万ドル(6億6000万円、1ドル=110円で計算、以下同様)の資金を調達した。2017年には投資ラウンドB第2弾として3300万元(5億6100万円)、2018年には投資ラウンドCとして2億8847万元(49億399万円)、2019年には投資ラウンドDとして4400万ドル(48億4000万円)の資金を調達した。

 そして、2020年5月の香港上場では18億6100万香港ドル(260億5400万円、1香港ドル=14円で計算)の資金を調達している。

 10年を超える研究開発でようやく成果が出ようとしている。前立腺がん、乳がんなどの治療薬の研究がそのまま新型コロナウイルス感染症の治療薬に応用できるといったチャンスをつかみ取ろうとしている。童友之会長をはじめ、研究者たちのひた向きの努力と忍耐力が実を結ぼうとしている。

 童友之会長は1980年に北京大学科学専攻を卒業するとアメリカに渡り、専門を生物医学に変え、がん治療薬の研究を20年近く行った。その経験を活かし、2002年、アメリカの創薬ベンチャー企業「Angion Biomedica」に就職、幹部として新薬の開発から臨床試験、発売に至るまでの実務を経験している。

 資金調達について、少し細かいデータを示したが、これは欧米系VC、エンジェル投資家がイノベーション企業を育成する王道のシステムである。中国イノベーション企業の強さは、アメリカ由来である。アメリカ政府が中国企業に強い警戒心を持つ理由はここにもあるのではないだろうか。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。

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