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楽天・三木谷氏 宇宙から電波を降らし日本を覆う「スペースモバイル」計画

三木谷浩史氏と孫正義氏のこれまでの歩み

三木谷浩史氏と孫正義氏のこれまでの歩み

「このアンテナ、もう少し小さくならないか。そうすればもっとパパッと取り付けられるだろ」

 三木谷は矢澤を連れてアンテナ建設の現場を訪れると、設置工事に手間取る作業員を見て作り直しを指示した。一事が万事。三木谷の経営は自分の手足を動かす「ハンズ・オン」が原則である。

 楽天は2005年、博多駅前に本社を置く創業42年の老舗信販会社、国内信販(現楽天カード)を買収して信販事業に進出した。設立7年目のベンチャーである楽天に買収されるくらいだから、国内信販の経営内容はガタガタだ。

「こんなもの、すぐに撤去しろ!」

 買収が決まって初めて国内信販の本社を訪れた三木谷は激怒した。赤いフカフカの絨毯を敷き詰めた役員フロアは、どこの大銀行の頭取室かと思うような豪華な内装だった。三木谷はお公家様のような古手の役員を一掃し、若手を中心に立て直しに入る。

 2003年にオリックス・クレジットから引き抜いた穂坂雅之とともに毎週のように博多に入り、残った社員と話し合いながら立て直しの道を探った。行き帰りの飛行機の中で資料と睨めっこし、少しも休もうとしない三木谷を見て穂坂は感心した。

「大したバイタリティだ」

 買収から16年経ち、楽天カードは2021年6月に発行枚数2300万枚を誇る日本一のカードになった。

 三木谷の経営は泥臭い。奇策を弄するのではなく、一つずつ問題点を洗い出し着実に解決していく。「夏まで」としていた人口カバー率96%の目標は、世界的な半導体不足の影響で「年内」にずれた。一つ解決すればまた一つ課題が発生する。それでも三木谷は嬉々としてやっている節がある。ある日、筆者とのインタビューの途中で三木谷はこう言った。

「這いつくばって進むのはウチの得意技。こういうのが楽しいんだよなあ」

 鬼軍曹の三木谷が率いる楽天モバイルは、匍匐前進でひたひたとNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3メガに迫っている。だが危機感は薄い。ある3メガの幹部はこんな言葉を漏らしている。

「96%と言ってもね、そこからが大変なんだよ。残り4%のために我々はどれだけの時間と金を使ってきたことか」

 人口が密集した都市部はアンテナ1本で何百、何千の利用者をカバーできるが、過疎地や離島では利用者がまばらになる。普通のやり方では、残り4%の引き上げに、それまでの3倍のコストと時間がかかる。地道な地上戦を繰り広げてきた楽天は、ここで空中戦に打って出る。「スペースモバイル」計画だ。

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