田代尚機のチャイナ・リサーチ

世界的インフレ加速もあるか カリウム肥料価格上昇の背景とその影響

塩化カリウム価格の上昇は氷山の一角

 問題は、世界第3位の埋蔵量があるベラルーシにおいて、生産が滞る事態が起きている点にある。

 2020年8月に行われたベラルーシの大統領選挙の結果に対して市民が抗議活動を行ったが、それに対して政府は厳しい弾圧を行った。EUは2020年10月、それを批判し、政府関係者に対する資産凍結、制裁対象に対する資金提供の禁止などの措置が行われ、2021年11月には、その制裁措置が更に強化された。EUがベラルーシに対して門戸を狭めたことで、ベラルーシの経済活動や、貿易が阻害され、グローバルで塩化カリウムの需給バランスが崩れるといった事態が発生したのである。

 今後の見通しを考える上で気がかりなのは、各国が食の安全に対する意識を強めている点だ。各国が非効率に農業生産を増加させることによって、塩化カリウム需要が増え続ける可能性がある。塩化カリウムは国際商品である。価格上昇は中国だけの問題ではなく、国際的な問題である。

 塩化カリウム価格の上昇は食品に関する生産コストの上昇を招き、延いては食品全体の価格を押し上げかねない。

 2022年のグローバル経済はインフレが大きな課題となりそうだが、食品価格の上昇はインフレを加速させかねない。また、食品価格の上昇は、エンゲル係数の高い低所得者層への影響が大きい。消費の低迷に加え、社会の政府に対する不満が高まりかねないといった問題を含んでおり、社会が不安定になりかねない。

 米国では今年、金融政策の変更が確実視されている。しかし、もし、米国のインフレが景気回復による総需要の拡大だけが原因ではなく、ここで示してきたような供給側の要因も主な原因として無視できないとすれば厳しい。金融政策だけではインフレは防ぎきれない。

 塩化カリウム価格の上昇は氷山の一角である。経済の自由化、国際化を阻害すれば、グローバル経済の効率性は低下し、いろいろな側面から経済活動に悪影響がでてしまう。米国による対中強硬策、中国とのデカップリング政策や、欧米諸国による体制の違いに対する過度な干渉は、やがて自国経済への深刻な悪影響として跳ね返ってきてしまう。

 経済のグローバル化、自由化戦略からの離脱による悪影響について、各国はもっと慎重に検討する必要がありそうだ。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。

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