大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

AIが人間の仕事を奪う時代が近づく 生き残るカギは「0→1」の構想力か

ラーメン屋にも「0→1」が重要

 構想力は、言い換えれば「0から1を生み出す力」「見えないものを見る力」であり、シンギュラリティ後も大きな価値を持つ。

 トフラー氏が言う「第二の波」の「産業革命」による工業化社会では、市場を独占・寡占した大企業が価格を釣り上げて利益を得ていた。一方、「第三の波」の「情報革命」による情報化社会では、アメリカのGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)や中国のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)などが巨大企業になったが、価格を釣り上げて儲けるモデルではない。グーグルやフェイスブックに至っては基本無料だ。ユーザーのデータを握り、それを活用して儲ける仕掛けを創り出したのである。

 そして「第四の波」の「サイバー&AI革命」では、構想力によってAIを駆使した新しいビジネスモデルを創造できる人間が勝つ時代になるのだ。

 構想力が物を言うのはビジネスの世界だけではない。構想力がある芸術家やスポーツ選手、あるいはゲームやアニメのクリエイターなどは、少数精鋭化しながら「第四の波」の中でもボーダレスに活躍するだろう。

 さらに言えば、飲食店の料理人のような仕事も構想力が重要になる。

 たとえば、私の自宅からほど近い四谷のトンカツ屋は終日30分~1時間待ちの長蛇の列ができているし、市ヶ谷のラーメン屋も行列が絶えない。私が長年贔屓にしている四谷の鮨屋は常に満席で全く予約が取れない。これらの店は「0から1」を生み出す構想力と向上心のある料理人が他店と一線を画す独自の料理を創り出し、リピーターを増やして繁盛しているのだ。

 ただし、すべての仕事に構想力が必要なわけではない。というよりAIに置き換えられない仕事は今よりも付加価値が高まるだろう。

 一例は、老人介護や出産・育児支援である。そうした分野はAIやロボットによる支援に限界があるので、人間によるホスピタリティを高めていけば、潜在的なニーズを掘り起こすことができるはずだ。実際、最近は出産専門の高級リゾートホテルのような施設が登場している。1泊3食付き10万円ほどだが、美しい海や山の風景を眺められる豪華な個室で、産前から産後まで至れり尽くせりの医療と看護が受けられるという。

 つまり、シンギュラリティが起きたとしても、構想力さえあれば何も恐れる必要はないし、構想力がなくてもAIが苦手なことはたくさんあるから、その領域のスキルを身につけておけば生き残っていけるのだ。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2022~23』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『稼ぎ続ける力 「定年消滅」時代の新しい仕事論』等、著書多数。

※週刊ポスト2022年3月11日号

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