大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

大前研一氏 「嫡出推定」論議は噴飯、少子化対策に「母子本位の制度を」

150年前の亡霊 、「戸籍」の呪縛

 子育てをしているシングルマザー・ファーザーは少なからず困窮している。新型コロナ禍の影響を受けている子育て世帯の支援を目的とした18歳以下への10万円給付では、児童手当の登録口座が振込先となるため、昨年9月以降の離婚に伴う養育者側への口座変更が反映されず、親権を持たない(子育てをしていない)側に給付されたケースもあるというお粗末極まりない事態が起きた。そうした問題の元凶が150年前から続く「家(戸)」を基本単位とした戸籍制度である。

 戸籍法は1871年(明治4年)に制定され、敗戦後の民法改正による家制度廃止に伴って従来のものを全面改正した現行の戸籍法が1948年に施行された。民法上の家制度は廃止されたものの、現在も「家=戸籍」という古い価値観は(とくに自民党保守派に)根強く残っている。それが婚外子に対する差別や夫婦別姓を認めない硬直した政治につながり、ひいては少子化問題のボトルネックになっているのだ。

 少子化問題を解決するためには、男社会の象徴である戸籍制度を撤廃し、婚内子、婚外子、養子にかかわらず、すべて母親と子供を中心としたコンセプトに大転換しなければならない。そうしないと、少子化に歯止めはかからないのである。

 しかし、今の政治状況を見ていると、戸籍制度の撤廃について議論しようという動きは微塵もない。戸籍制度だけでなく、日本は従来の古い統治システム全体を21世紀に対応して根本的に変えなければならないのに、変えられない国になってしまっているのだ。これは国家の“老化現象”にほかならない。

 かと思えば、4月から民法の「成人(成年)年齢」が20歳から18歳になり、1876年(明治9年)以来、146年ぶりに「成人」の定義が見直される。これは安倍晋三元首相が第一次政権の2007年に成立させ、第二次政権の2014年に改正した国民投票法で憲法改正の投票権年齢を民主党(当時)の賛成を得るため「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げたことがきっかけだ。2015年に選挙権年齢も「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げられ、それに伴い「成人年齢」も「18歳」になった。政府が改憲をやりやすくするための法改正、いわば“法治なき人治”である。

 今回の「嫡出推定」見直しも、自民党保守派が「不倫を助長する」などと反対して頓挫することが危惧されている。そういう頑迷固陋な政治家がのさばっているから、日本は変化できずに落ちぶれているのだ。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2022~23』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『稼ぎ続ける力 「定年消滅」時代の新しい仕事論』等、著書多数。

※週刊ポスト2022年3月18・25日号

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