真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

中国「ゼロコロナ政策」の先に待つ大失速 景気対策でも回復期待できず

共産党への批判を避けるため、習近平政権はSNSに圧力をかける可能性も(写真/Getty Images)

共産党への批判を避けるため、習近平政権はSNSに圧力をかける可能性も(写真/Getty Images)

上海の4月の新車販売台数はゼロ

 特に、ロックダウンが長らく続いた上海は深刻な打撃を受けている。上海市自動車販売協会の発表によると、同市の4月の新車販売台数はなんとゼロ! 昨年4月の約2万6000台と比べると、ロックダウンの影響がどれほど大きいかが分かる。世界最大の自動車大国の中心都市がこの有り様なのだ。

 奇跡的にここからV字回復となれば話は別だが、そう簡単な話でもないだろう。成長率が下がれば、企業の生産活動は停滞し、失業者が増えるのは必至の情勢だ。そうなると、社会不安が広がり、経済成長によって抑え込んできた人民の不満の高まりから、やがては共産党批判につながりかねない。

 共産党へ批判の矛先が向くことだけは避けたい習近平政権は、人民への圧力を強め、とりわけ批判の声が集まりやすいSNSにさらなる圧力をかけるかもしれない。それによって、これまで中国の経済成長を牽引してきたテンセントやアリババといった巨大IT企業の業績が落ち込むことも予想される。

 加えて、もう一つの悪材料が不動産市況の悪化だ。国内大手の中国恒大集団をはじめ不動産デベロッパーの業績は悪化しており、今後は中小を含む経営破綻が相次ぐ可能性が高まっている。

 中国経済の失速が鮮明になろうとするなか、共産党政権は公共投資などの景気対策を打ってくる可能性は高い。だが、それによってこれまでのような高成長を取り戻せるわけではない。既に中国の公共投資は、経済効率の良い案件にほぼ行き渡っており、効率の悪い案件にいくら資金を投じても経済全体が大きく上向くことにはつながらない。

 もはやそうなると、中国国内の問題だけにはとどまらない。1990年代以降、中国は「世界の工場」から「世界の消費大国」として世界経済の牽引役となってきたが、それがいよいよ低成長の時代に突入する公算が高まっているのだ。

 ロシアへの経済制裁によって、世界経済は「グローバル化」から、経済が分断される「ブロック化」へと突き進もうとしている。世界的なサプライチェーン(供給網)は寸断され、良いモノを安く調達できる体制は崩壊した。

 コロナ禍にウクライナ問題、そして中国経済の失速が重なることで、世界が大きく一変する「メガチェンジ」が到来する可能性も高まりつつある。事態の推移にますます目を凝らしておくべきだろう。

【プロフィール】
真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。多摩大学特別招聘教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学教授、法政大学大学院教授などを経て、2022年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。近著に『ゲームチェンジ日本』(MdN新書)。

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