中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

昔と何が変わった?大学生の「就職活動しない」という選択を支持するワケ

「35歳転職限界説」はもう過去のものに

 当時は「35歳転職限界説」というのもありました。私のような第二次ベビーブーム世代(団塊ジュニア)は人口も多く、企業にとっても人手が余ることが予想され、将来性を考慮してある程度若くないと戦力として認められない、と考えられていたのです。

 しかし、結果として第二次ベビーブーム世代は「氷河期世代」と呼ばれるようになり、いわゆる「いい会社」に入るのは非常に難しく、非正規になったりそもそも就職できなかったりする人も少なくなかった。「いい会社」に入れた人々は、激しい競争を勝ち抜いてきたという自負があるせいか、上の世代のようにそこまで転職を厭わないし、実際、条件が良ければさっさと別の会社に移る人もいました。

 その後の世代では「売り手市場」になり、イキの良い若者がIT企業やベンチャー企業で活躍し、若くして起業したりするような人も出てくる。そうした会社にとっては、35歳を過ぎていたとしても「いい会社」を経てキャリアを重ねた人々は貴重な戦力のため、高い役職を用意し、好待遇で招き入れます。

 かくして2010年代中盤以降、「35歳転職限界説」は、優秀な人に関しては、なくなったように感じられます。さらに言えば、「いい会社」に限らず、「社格」が低い会社からでも能力さえあれば、人気企業に転職するケースも増えています。「とにかく仕事ができれば過去の会社や年齢は問わない」といった転職事例が、実際に増えています。

 そうした環境を踏まえると、大学3年生にして若手サラリーマン並の月収を得ているA君は、コンテンツ制作や広告営業の能力もすでに身につきつつあるでしょうし、就職活動をしなくても将来的な選択肢は豊富にあると思います。今後の頑張り次第ではありますが、自身が希望すれば、いずれ良い条件の会社に転職することも可能でしょうし、自ら起業する選択肢も出てくるでしょう。あるいはA君自身が考えているように、友人と一緒に今の会社を大きくする、という道もある。

 10年前の私であれば迷わず「まずはいい会社に行け! その後が有利になる」と助言したところでしょうが、今は「どうせどこの会社だって若手を欲しがっているんだから、最初からいい会社に入る必要はないし、なんだったら大学も辞めていいんじゃない?」と助言するようになりました。就職・転職市場の風景も変わったものです。特にこの2年半のコロナ時代が大きな転機となっているのではないでしょうか。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『よくも言ってくれたよな』(新潮新書)。

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