田代尚機のチャイナ・リサーチ

中国・李克強首相の発言が波紋 「5.5%前後の成長目標」を事実上断念か

中国の経済運営システムは転換を迫られているのか(習近平国家主席=左と李克強首相。Getty Images)

中国の経済運営システムは転換を迫られているのか(習近平国家主席=左と李克強首相。Getty Images)

 上場企業が自ら発表する業績予想ですら中々その通りにならないのに、国家全体の成長見通しなど毎年、正確に予想できるのだろうか──。計画経済の残渣ともいえる成長率目標の設定に関して、中国は今、その是非を問われるような事態に直面している。

 李克強首相は7月19日夜、世界経済フォーラムが主催する50か国以上、400人近いグローバル企業家が参加する特別対話会(ウェブ会議)に出席、「マクロ政策は非常に有効であり、また合理的で適切だ。高すぎる成長目標のために、超大規模な刺激措置、金融緩和を打ち出し、将来の成長を先取りするようなことはしない」と発言した。

 市場関係者たちのコメントを含め、マスコミが広くこの内容を報道し始めたのは、20日の大引け後であり、株式市場への影響は21日に現れた。

 売買代金(上海市場)が10%ほど増える中で上海総合指数は1%下落した程度であり、決して大きな悪材料として意識されたわけではなかったが、政策発動への期待が弱まる形でしばらくの間、地合いを悪くする可能性も指摘されている。

 もっとも、李克強首相の発言は正論だ。

 ゼロコロナ政策で4月は多くの経済指標が大きく落ち込んだものの、5月には下げ止まり、6月には急回復に転じている。また、就業、物価は安定している。5月に発表した6方面、33項目からなる“ワンパッケージ政策”の効果は表れ始めたばかりであり、これから大きな効果を発揮する余地がある。上期が2.5%成長にとどまった以上、目標達成には下期8%を超える成長が必要だが、だからといってそのために無理な刺激策を追加すべきではないだろう。

 グローバル市場では、今年に入ってロシアによるウクライナ侵攻が起こり、ロシアに対する米国同盟国による厳しい経済・金融制裁が実施された。それに伴いエネルギー価格、農産物価格が上昇、さらには米国のインフレと金融引き締め政策によって景気がオーバーキルされてしまう懸念もある。中国国内では新型コロナウイルス感染再拡大の影響も予断を許さない。

 このように、中国国務院が5.5%前後の成長率目標を作成する時点では十分その影響を検討されていなかったことが無数に起きているのが現実だ。

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