中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

企業が直面し始めた「SDGs疲れ」 崇高な目標に振り回されて疲弊する本末転倒

スーツに「SDGsバッジ」を着けて、その意義をアピールする人もいるが…

スーツに「SDGsバッジ」を着けて、その意義をアピールする人もいるが…

 ここ数年、世間に浸透するようになった「SDGs」という言葉。「Sustainable Development Goals」、つまり「持続可能な開発目標」のことで、〈貧困を無くそう〉〈飢餓をゼロに〉〈すべての人に健康と福祉を〉〈気候変動に具体的な対策を〉といった17の項目からなり、特に社会的責任の大きい大企業や役所は積極的に推進することが求められている。ところが、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏によると、「最近企業や役所の人と喋ると“SDGs疲れ”している人が増えている」という。いったいなぜ、SDGsに苦しめられてしまうのか。中川氏が考察する。

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 日本の組織ってとかくお上の通達や、上司・チームで決めた目標数値を達成することに邁進して、苦しんでしまうんですよね。これでは本末転倒ではないでしょうか。だから途中で「そもそもこれは目標達成のため、手段が目的化していないか?」と疑問が出たりすることもあります。

 分かりやすかったのが、2021年、日本政府の新型コロナウイルスワクチン接種の遅さが批判されていた時、菅義偉首相(当時)が「1日100万回」をぶち上げ、国民一丸となって100万回を達成。その路線を引き継いだ岸田政権の支持率も高くスタートしました。そしてそこから先は「種類よりもスピード」と言い出したり、「2022年中に1・2回目の接種を検討してください」「もう6回目・7回目も準備しています」となりました。海外で5回打った国など稀なのに、もはや支持率を維持するための手段と化してしまったのではないでしょうか。そしてそれを達成しようと躍起になる。

 同様のものが、かつて話題になった、東芝の「チャレンジ」でしょう。東芝の転落が決定的になった粉飾決算ですが、上から達成不可能にも見える収益目標を設定され、数字上達成して見えるように悪戦苦闘した末路です。こうした例を見ても、「一度決めた目標はその数字通り達成しなくてはならない」が金科玉条となっていることが分かります。

 SDGsについては、「貧困をなくそう」「ジェンダー平等を実現しよう」など、17の項目がありますが、企業はこれらのうち少しでも多くを達成しようと、多様性重視の人事制度を打ち出したり、貧困国に寄付をしたり、海岸のゴミ掃除をしたりします。

 私の知り合いの広告マンは子供たちにSDGsを啓発をするプロジェクトに携わっていて、自身の勤める会社もSDGsに熱心であることをホームページ等でアピールしてきました。他の知り合いも、昨年の春頃はスーツの上着に“SDGsバッジ”を着け、その重要性を説いていました。ところが最近は、「ちょっと我が社だけでは手に負えない。“いい会社アピール”も疲れた。全部達成するのは無理……」と言い出す人も出てきています。

 そうなのです! SDGsの各目標を見ると、「確かに素晴らしいものだよな」と思うのですが、その達成を目標にしてしまうと今度は人生が疲れてしまう。企業の場合は特に「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「気候変動に具体的な対策を」などを重視しようと考えるのでしょうが、そこにも“SDGs疲れ”が出ているのではないでしょうか。

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