中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

企業が直面し始めた「SDGs疲れ」 崇高な目標に振り回されて疲弊する本末転倒

無理を減らすための「つなぎ」の考え方

「貧困をなくそう」から始まるSDGsの17の目標

「貧困をなくそう」から始まるSDGsの17の目標

 1月2日、ITmedia ビジネスONLINEに掲載された〈トヨタは日本を諦めつつある 豊田章男社長のメッセージ〉という記事は、まさにそれを感じさせるものでした。以下、一部引用します。

〈このままいけば、おそらくトヨタは日本を出て行く。それは筆者の妄想ではない。21年の春の時点で、既に筆者はトヨタの役員のひとりから直接そういう話を聞いている。日本政府が35年に本当に内燃機関の全面禁止を進めるのであれば、トヨタは日本を出て行かなくては生き残れない。

 トヨタがいなくなった後で、オールBEV化でもオール太陽光でも、できるのならば好きにやってくれと。そんなギャンブルに全世界36万人のトヨタ社員の命運は賭けられないので、トヨタは出て行くしかない。その準備には10年は必要だ。とすれば25年には判断を下さなければ間に合わない。〉

 SDGsの理念に合わせて化石燃料の絶対使用不可や完全カーボンニュートラル等の夢を追いかけるよりも、世界36万人の社員の生活を重視すべき!という主張を紹介しています。私もこちらの方が人間らしいと思いますし、無理はないと考えます。

 SDGsへの取り組みについては、何より「無理をしない」というのが重要ではないでしょうか。最近聞いたのが「カーボンニュートラル都市ガス」という取り組みです。都市ガスは石炭や石油よりもCO2排出量は少ないものの、それでもやっぱりCO2は出る。だったら、世界各地で植樹や森林整備等をしてCO2を吸収するようにして、排出する分を相殺(カーボン・オフセット)するというものです。この考えに共感する会社はこの認証付きガスを使ってね、ということ。

 これならば顧客は自社製品を「SDGsの考えに基づいて製造」と胸を張って言える。そして、都市ガス各社としては、2050年までにCO2をなるべく排出しないガスの開発を頑張る。全力で最終目標に突っ走るのではなく、この「つなぎ」の考え方は無理が少し減る。

 崇高な目標を掲げることは重要ではあるものの、一人ひとりの労働者が無理をしすぎてはいけません。2021年4月、小泉進次郎・元環境大臣が「2030年までの温室効果ガスを46%削減する」という政府目標を提唱し、その数値は「おぼろげながら浮かんできた」と言いました。進次郎氏の出身の横須賀市の市外局番が「046」だとか、「し(4)んじろ(6)う」の語呂合わせだとか、いろいろ言われていますが、根拠のない数値目標に振り回されて苦しむのは、避けたいところですね。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『よくも言ってくれたよな』(新潮新書)。

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。