大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

岸田政権批判を続けてきた大前研一氏も評価する「安保関連3文書改定」の歴史的意義

 もう1つの焦点は財源である。岸田首相は、歳出改革などの努力で賄い切れない1兆円強については「将来世代に先送りすることなく、今を生きる我々が将来世代への責任として対応すべき」と述べ、借金(国債)ではなく安定的な財源として法人税、所得税、たばこ税を段階的に増税する方針を示した。それに対して、自民党内から反対が相次ぎ、開始時期などの決定については先送りとなった。

 だが私は、防衛費に関しては財源の議論をすべきでないと思う。国防は国の根幹であり、国と国民を守るための費用は一般歳出の基本項目だからである。

 そもそも、この国はマイナポイントや全国旅行支援、ガソリン・電気・ガス料金の補助金といった無駄な出費が山ほどある。実際、2021年度決算では年度内に使い切れず2022年度に繰り越した経費が22.4兆円に達し、新型コロナウイルスの感染拡大で中止した「GoToトラベル」だけでも7743億円だった。そういう無駄遣いをやめれば、防衛費の財源はいくらでも捻出できるはずだ。

 安保関連3文書が指摘しているように、いま日本は中国、北朝鮮、ロシアという3大リスクに直面している。その3か国の共通点は、習近平国家主席、金正恩総書記、プーチン大統領という“暴君”が存在していることだ。

 プーチンは「暴君が暴走したら何が起きるか」という実例を示した。もし、台湾統一に向けて「武力行使の放棄を決して約束しない」と宣言した習近平、日本近辺へのミサイル発射を繰り返している金正恩が、プーチン化したらどうなるか? そのリスクが目の前にあるのに、ただ念仏のように「専守防衛」を唱え続けるだけでよいわけがない。

 しかも、防衛力増強は「待ったなし」だ。兵器や防空システムも(実戦経験のない)国産にこだわらず、アメリカ、EU、韓国、イスラエルなどから購入して、可及的速やかに必要十分な装備を整えるべきである。

 とにもかくにも、岸田首相は安保関連3文書に「反撃能力」の保有を明記し、「専守防衛(という空念仏)」と半世紀以上も続いていた「防衛費のGDP比1%枠」を撤廃した。これらの“功績”だけで、在任期間の長短にかかわらず、歴史に残る宰相となるだろう。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点 2023~24』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2023年2月3日号

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