大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

岸田政権批判を続けてきた大前研一氏も評価する「安保関連3文書改定」の歴史的意義

安保関連3文書の改定が国防のあり方をどう変えるか(イラスト/井川泰年)

安保関連3文書の改定が国防のあり方をどう変えるか(イラスト/井川泰年)

 日本の安全保障政策は大きな転換点を迎えている。昨年末には「安保関連3文書」を閣議決定し、防衛力強化の施策は従来以上のスピード感で進んでいくとみられる。「敵基地への攻撃手段を保持しない」という従来の政府方針を転換し、相手から攻撃される可能性が明らかな場合に敵のミサイル発射地点などを叩く「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有を明記したのだ。この安保関連3文書改定について、経営コンサルタントの大前研一氏は「岸田政権最大のレガシー(遺産)なるのではないか」と評価する。大前氏がそのポイントについて解説する。

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 安保関連3文書は、外交や防衛の指針である「国家安全保障戦略(NSS)」、防衛の目標や達成方法を示した「国家防衛戦略」、自衛隊の体制や5年間の経費総額などをまとめた「防衛力整備計画」で構成される。

 その内容のポイントは、まず「我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」とした上で、周辺国の軍事動向について、中国を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」、北朝鮮を「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」、ロシアを「安全保障上の強い懸念」と位置付けた。

 そうした安全保障環境を踏まえ、日本への侵攻を抑止するため国産スタンド・オフ・ミサイル(相手の射程圏外から攻撃可能な長射程のミサイル)の長射程化やアメリカ製巡航ミサイル「トマホーク」の導入などにより、「必要最小限度の自衛措置」としての反撃能力を保有する。

 それに伴い、防衛費は2023年度から2027年度までの5年間で総額43兆円程度(現行の中期防衛力整備計画の1.5倍超)に増やし、2027年度の予算水準を現在のGDP(国内総生産)の2%にする──というものだ。

専守防衛が通用しない“暴君”たち

 安保関連3文書改定の焦点は何か? 最も大きいのは、左派勢力の朝日新聞的戦後民主主義の建前論を吹き飛ばし、「戦争・武力行使放棄」「戦力不保持」「交戦権否認」を謳う憲法第9条の呪縛を解いたことだ。

 日本はアメリカ(GHQ/連合国最高司令官総司令部)が急ごしらえした現行憲法を戦後77年、一度も改正せず後生大事に護ってきた。しかし、同じ敗戦国のドイツやイタリアは、何度も改憲しているし、NATO(北大西洋条約機構)の核兵器シェアリング(アメリカ軍の核兵器が使用される場合、その国の軍隊が核兵器の運搬に関与することを定めた協定)にも加わっている。

 本連載(『週刊ポスト』2022年12月23日号)でも書いたように、もともと私は新たに自主憲法を制定すべきと考える「創憲」論者だが、安保関連3文書に「反撃能力」の保有を明記したことで、ようやく憲法第9条の軛から離れて本来あるべき姿に近づく歴史的な一歩を踏み出したことは間違いない。

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