渋谷・松濤の物件を紹介する中国人向けSNSの広告(小紅書より)
中国人の旺盛な“購買意欲”は、日本の「高級不動産」にも向けられている。数億円もする物件をポンと一括で購入。そんな超富裕層の熱い視線が今、安倍晋三元首相の暮らしていた邸宅がある東京・渋谷の一等地に注がれているという。中国に詳しいライター・廣瀬大介氏がレポートする。【全3回の第1回】
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〈日本の前首相とご近所さんになるってどんな感じ?〉(日本語訳。以下同)
これは「小紅書(中国版インスタグラム)」で中国人富裕層向けに投稿された日本の物件広告の“謳い文句”である。
7月1日、国税庁が公表した2025年分の土地の路線価は、全国平均で前年比2.7%のプラス。東京が上昇率8.1%と最も高く、路線価の大幅上昇の一因として中国など海外マネーの流入が指摘されている。
これまで中国人富裕層には「海が見える・富士山が見える・高層階」といった条件を満たす湾岸エリアのタワーマンションが人気だった。それに加えてこの数年、新たな人気エリアが出てきている。中国系不動産会社のSNS広告に、東京・渋谷の超高級住宅街「松濤エリア」に関する情報が急増しているのだ。
小紅書を見てみると、
〈松濤400平方メートルの土地販売中〉
〈渋谷区松濤3LDK148平方メートル〉
〈松濤最高級富裕エリア405平方メートルの土地〉
といった投稿で溢れている。価格表記がなかったので業者に問い合わせたところ、148平方メートルのマンションは4億9800万円、405平方メートルの土地はなんと「24億8000万円」で売りに出しているという返事があった。中国人向けの不動産広告における「松濤」とは渋谷の奥地にある住宅街一帯(松濤・大山町・神山町・富ヶ谷など)を総称しているようだ。
このエリアに人気が集まっているのは立地の良さや閑静な住宅街であることに加えて「圧倒的な“ブランド力”がウケている」とある不動産ジャーナリストは言う。
「中国の不動産業者は広告で松濤周辺を首相経験者や世界的な経営者らが住む“ハイソサエティの街”として宣伝しています。狭い地域のため、土地やマンションの供給自体が湾岸エリアに比べて少ないことも希少性に目がない超富裕層の嗜好にハマっているようです」
冒頭の宣伝文句は、安倍晋三元首相や麻生太郎元首相の邸宅に近いことを利用しているのだろう。ほかにも〈渋谷松濤 俗世から離れた場所 日本のトップ億万長者、柳井正がお隣さんに〉と「ユニクロ」のファーストリテイリング創業者・柳井正氏の大豪邸があることを紹介する書き込みもあった。
中国人富裕層の間で巻き起こる“松濤ブーム”の実態を取材すべく、SNSで土地や高級マンションの部屋の広告を投稿する複数の中国系不動産会社に接触した。
(第2回へ続く)
【プロフィール】
廣瀬大介(ひろせ・だいすけ)/1986年生まれ、東京都出身。フリーライター。明治大学を卒業後、中国の重慶大学に留学。メディア論を学び2012年帰国。フリーランスとして週刊誌やウェブメディアで中国の社会問題や在日中国人の実態などについて情報を発信している。
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※週刊ポスト2025年7月18・25日号