腰の痛みを放置すると、生活の質(QOL)の低下を招きかねない(写真:イメージマート)
腰痛が厚生労働省の調査で「気になる症状」1位となったように、人知れず痛みに悩むビジネスパーソンは多い。腰痛にはどのような種類があるのか。なかでも比較的若い世代に多いという「椎間板ヘルニア」は、どのような病気なのか──。シリーズ「医心伝身プラス 名医からのアドバイス」、脊椎外科の分野で多くの手術実績を持ち、低侵襲治療の普及に尽力する東京慈恵会医科大学附属病院脊椎・脊髄センター・篠原光医師が解説する。【腰痛の原因と最新治療・前編】
日本人の多くが抱える腰痛の悩み
現役のビジネスパーソンで腰痛に悩んでいる方は大勢いますが、多くの方がマッサージや湿布、鍼灸などで痛みを和らげながら日常生活を送っているのではないでしょうか。厚生労働省が令和4年に行なった「日ごろ気になっている体の症状」についての調査によると、日常的に気になる症状として男女ともに肩こりを抑えて腰痛が1位となりました。男性は1000人当たり91.6人、女性は111.9人が腰痛を訴えています。年齢構成を見ても20歳代から60歳代までほぼ同じ割合で推移しており、70歳代で少し増加するものの、年齢・性別を問わず、いかに多くの方が腰痛に悩まされているかが分かります。
ここで重要なのは、腰痛は「疾患名」ではなく「症状」を指す言葉だということです。主に脊椎やその周辺の組織の異常によって生じることが多く、その症状は多岐にわたります。一口に「腰痛」といっても、痛みの程度や場所は人によって千差万別です。
厚生労働省による「日ごろ気になっている体の症状」についての調査結果(1000人当たりの人数)
腰痛の痛みやしびれの出る場所は原因によって違う
「脊椎(脊柱)」は、「椎体」という小さな骨が上下に連なった柱状の構造をしています。頭に近い方から頸椎7個、胸椎12個、腰椎5個の計24個が連なり、その下に仙骨と尾骨が続きます。これら頸椎から尾骨までの総称が脊椎です。中でも腰椎は上半身と下半身のつなぎ目にあたり、常に荷重がかかり激しい動きを強いられるため、さまざまな疾患が起こりやすい箇所といえます。
脊椎の役割は、体幹を支えて動きをサポートするだけでなく、その中心を通る神経(運動神経・知覚神経)を保護することにあります。脊椎が障害される主な疾患には、圧迫骨折や腰部変性後弯症(腰曲がり)、腰椎すべり症、変形性脊椎症などがあり、これらは痛みだけでなく姿勢の保持や体幹の可動を困難にします。また、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、後縦靱帯骨化症などは、脊椎内部の神経の通り道が狭くなり神経が圧迫されることで、さまざまな神経症状を引き起こします。
脊椎(脊柱)」は「椎体」という骨が柱状に連なっている
一方、脊髄は脳から続く中枢神経であり、脊椎の中を通りながら、そこから枝分かれした神経が全身へと伸び、脳からの指令を全身に伝え、全身の情報を脳に伝える役割を担っています。神経を保護している脊椎やその周囲に異常が生じてによって運動神経が傷害されれば、筋力低下や手足の動かしにくさが現われます。また、知覚神経が傷害されれば、痛みやしびれが生じます。さらに、排尿や排便に関わる神経が障害されると、頻尿や排尿のしにくさ、便秘などの症状が現われることもあります。
このように、腰痛といっても障害される神経の部位や原因によって、痛みやしびれの出る場所、症状が違います。腰痛の背景にはさまざまな原因があることを理解することが重要です。


