華々しい門出だったが…(2013年、一番左は当時経産相の茂木敏充氏/時事通信フォト)
日本の成長戦略を担うはずだった組織の機能不全が明らかになった。安倍政権肝煎りで設立された官民ファンド・クールジャパン機構の累積損失が500億円を超え、政府は廃止を含めた検討を始めるという。食や文化、最先端技術まで手広く投資先を広げたファンドはなぜここまで傷口を広げたのか。失敗の要因を探った。【前後編の前編】
廃止検討の引き金はベンチャー企業への巨額投資の失敗
経済産業省管轄のクールジャパン機構(以下、CJ機構。正式名称は海外需要開拓支援機構)は、2025年度の決算発表で累積損失が540億円に達したと発表。2025年度は売上高44億円に対して損失156億円の赤字だった。
同機構は日本のコンテンツや商品などの海外展開を支援するとして、当時の安倍政権の肝煎りで2013年に設立された。
「投資対象の分野はエンタメに加えて食や小売、製造業と手広いが、出資先の多くが収益などの計画を達成できず、成果が得られなかった」(全国紙記者)
当初、ファンドの運営期間は20年とされていたが、設立から10余年で積み上げた巨額損失を前に、政府は今後、廃止を含めた検討に入るという。
これまで数々の失敗を指摘されてきたCJ機構だが、廃止検討の引き金となったのは、あるベンチャー企業への巨額投資が失敗に終わったことだ。
CJ機構は山形県鶴岡市にあるスパイバー社(現・CRANE)に対し、2018年と2021年に計140億円を出資していた。
「2007年に設立されたバイオベンチャーで、遺伝子合成で製造した人工タンパク質をもとに先端繊維を開発・製造しています。創業者の関山和秀氏は慶應大出身の研究者で、在学中、鋼鉄や炭素繊維よりも強い天然の『クモの糸』を人工的に作り出す研究に着手。同大博士課程在学中の2007年、スパイバー社を設立して開発・実用化を目指しました」(全国紙経済部記者)
人工クモの糸の開発は、これまでNASAなど世界中の研究機関が挑戦し実現できなかった難題だというが、関山氏は遺伝子合成による人工タンパク質を製造することで原料の培養に成功。2013年、商品化を果たした。
「石油由来の合成繊維と異なり環境負荷も少ないため、夢の素材として注目されました」(同前)
先端技術への期待から同社にはCJ機構からのものも合わせて累計1000億円以上が投融資されたが、2025年12月期の売上高は2億円足らずだった。英バーバリーなどで同社の人工繊維が採用されたものの売り上げ拡大には繋がらず、円安や物価高による海外投資のコスト増などから400億円の最終赤字に陥った。
地域経済を牽引する存在として期待されたが、道半ばだったようだ。
「世界クラスの才能が集まるベンチャー企業ですが、地元で大きな取引先はない。ここからでも、世界企業として成長することを期待してはいます」(地元商工会幹部)
