マイバッハの伝統的な縦ルーバーを配したグリル。マイバッハ社は1920~30年代にはロールス・ロイスと並ぶ世界最高峰の超高級車ブランドとして名声を築いた
メルセデス・ベンツにおける最上級ブランド「メルセデス・マイバッハ (Mercedes-Maybach)」。通常のメルセデス・ベンツ車をベースにしながら「究極のラグジュアリーと快適性を追求」するため、選び抜かれた最高級の素材や最新テクノロジーを余すことなく投入して仕上げた『最高峰のサブブランド』として知られる。そのマイバッハから初めてのBEV(バッテリーEV)として送り出されたのがSUVタイプ「EQS 680 SUV」。システム全体での最高出力は658馬力という強力なモーターと118kWhの大型バッテリーを搭載し、一充電走行距離は640kmを実現したショーファードリブン(専属運転手が運転する車)だ。その価格は2790万円(税込)であり、メルセデス・ベンツの“上を行く存在”としての位置づけだ。そんなスペシャルな存在にとってBEVであることは、どんな意味があるのか? 自動車ライター・佐藤篤司氏がレポートする。
全長5m、全幅は2mを超えるサイズだが、全高は1.7m少々と低め。フロントからリアに掛けてなだらかなラインで表現されたデザインは独特のエレガンスを感じさせる
バンパーの左右にはマイバッハのエンブレムがぎっしりと並んでいる
「静けさ」と「滑らかさ」こそが最大の贅沢
メルセデス・ベンツにとって「EQ(エレクトリック・インテリジェンス)」というモデル名が付けば、それはメルセデスの電動車ブランド(BEV)のことです。その後に続く「S」は“Sクラスに相当するフラッグシップモデル”という意味になります。例えばEQAはAクラスのBEV、EQBならばBクラスのBEV、さらにEQCならCクラスのBEV……ということになります。
その法則に従って今回の「マイバッハEQS 680 SUV」をみると、電動ブランドのSクラスのSUVであると同時に、最上級の高級感とパフォーマンスを持った「600」シリーズに属することを意味します。おまけにメルセデス・ベンツを凌駕する位置づけの“マイバッハ”ブランドですから、もう訳が分からないほどの高級車と言うことになります。
ではこのプレミアムづくしのSUVにとって BEVであることはどんな意味があるのでしょうか?
まずはモーターが実現する驚異的な静粛性です。実はマイバッハのガソリンモデル(には自動車用内燃機関の中でもひときわ存在感を放つV12エンジン(Mercedes-Maybach S 680に搭載)があります。静粛にしてなめらかなパワーフィールと圧倒的なパワー&トルクで、驚異的なパフォーマンスを発揮するエンジンです。一方、「EQS680」のモデル名からも分かりますが、搭載された強力なモーターは、そのガソリンモデルと同等の、最上級のパフォーマンスを発揮するBEVになるわけです。
もともとエンジンのないBEVにとって静粛性は得意分野のひとつです。その上でマイバッハは遮音材や専用チューニングによって外界との隔絶感が徹底され、走行中もタイヤノイズや風切り音は極めて小さく、後席で会話をする際に声を張る必要がありません。その点においてモーターは実に大きな功績を持っている訳です。
次に注目したいのは、前後に永久磁石同期モーターを搭載し、システム出力649馬力、最大トルク約950N・mによって、0-100km/h加速は4.4秒を実現する俊足ぶり。アクセルを踏み込むと、3トンを超える巨体が信じられないほど軽やかに加速するのです。おまけにこの圧倒的パフォーマンスをモーターならではの滑らかさの中で表現しているのです。確実に動力性能はスーパーカー級ですが、決して暴力的ではなく、キャビンはいたって平和。一瞬気が遠くなるほどというか、モーターならではの加速感を示すのですが、その走りは実にエレガンスに満ちています。当然ながらBEVとしての走りはショーファードリブンにふさわしいものです。そのしつけに良い走りを味わった瞬間、マイバッハならではの出自の良さを痛感します。
この世界の頂点にある「ロールス・ロイス」の走りを「ワフト(Waft)」と表現することがあります。「ふわりと漂う」とか「風に運ばれる」という意味ですが、まさにその味わいにも似た滑らかさを彷彿とさせるほど。なんと言いますか、乗員を揺さぶることなく速度だけが上昇していく感覚です。モーター特有の瞬発力を持ちながら、マイバッハらしい優雅さを失わない点は実に見事と言えるのです。


