田代尚機のチャイナ・リサーチ

中国経済にデフレ懸念 不動産投機の抑え込みで住宅需要も回復しない悪循環から脱せるか

景気への影響が大きい不動産部門の不振

 需要面で特に気になるのは不動産だ。不動産投資は固定資産投資全体の2~3割を占め、消費における波及効果も大きいだけに、不動産業の不振による景気への影響は大きい。データで確認しておくと、4月累計の全国不動産開発投資は6.2%で3月累計と比べ0.4ポイント悪化している。一方で累計の商品不動産在庫面積は15.7%増で前月累計よりも0.3ポイント拡大している。

 もちろん当局は不動産部門の不振をただ傍観しているわけではない。

 中国人民銀行、銀行保険業監督管理委員会は昨年11月、金融面から不動産業を支援するための政策を発表している。資金繰りの窮した不動産会社に対する救済を含めて不動産会社向け融資の拡大や、住宅ローンの条件緩和などの措置を打ち出している。

 中国では、公有制原則により不動産財産権は一般には70年、一部では40年に限られているが、それを延長したり、相続にかかる税金を一部免除したり、銀行借入時の頭金比率制限を30%から20%に引き下げたりするなど、より具体的な政策も幾つか打ち出されている。

 国務院はこうした政策の効果を確認しながら、追加措置を加えていくことになるだろう。だが、現段階で投機の拡大を許してまでも景気を重視する気配は全く感じられない。

 持ち家必須、両親との同居拒否を結婚の絶対条件とする未婚女性たちの意識に大きな変化はなさそうだし、都市化の進展による一定の需要増は期待できそうだ。とはいえ、これまで住宅需要を牽引してきた投機需要を完全に抑え込んでしまえば、不動産需要全体の回復は厳しいのではなかろうか。

 必要以上に広く華美な造りの高額別荘タイプ不動産の転がしをやめさせたり、そうした物件の供給を厳しく抑え込んだりすることは社会にとって必要だろうが、一般庶民が蓄財、長期投資目的で行う数件程度の住宅取得まで抑え込む必要はないのではなかろうか。

 足元では、自動車産業、家電産業、あるいは教育産業などに対する需要拡大策の発動が目立つが、市場が期待するような“下半期の回復”を確実なものとするには、さらに一歩進んだ不動産需要拡大策の発動が望まれるところだろう。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。楽天証券で「招財進宝!巨大市場をつかめ!今月の中国株5選」を連載するほか、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。

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