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【2070年には「総人口の1割が外国人に」】政府が思い描く“多民族国家ニッポン”の虚妄

外国人の出入りは“水物”

 実は、政府が人口減少を移民の受け入れで解決しようと考えるのは、今回が初めてではない。2014年に安倍晋三首相が「2060年に1億人程度の人口を維持する」という目標を示した際も、移民を受け入れた場合の国家像をシミュレーションした。この際は「毎年20万人」の受け入れを前提とし、1億人程度の人口をどれぐらい維持し得るのかを試算した。

 自民党内の移民反対論に押されて安倍首相が火消しに追われたが、政府はその後も外国人労働者の受け入れ拡大政策を推進し、外国人を大規模に受け入れることで実現する「2060年に1億人程度」との目標は、2019年に策定した第2期「長期ビジョン」にも引き継がれている。技能実習制度の「発展的解消」を言い出したのも、機が熟すのを待っていたということだろう。

 だが、永住への道を開く「特定技能2号」の拡大を図ったからと言って、外国人人口が政府の思惑通りに増えるとは限らない。

 そもそも外国人の出入りは“水物”である。労働者を送り出す国の政治や経済の情勢が大きく影響し、不確定要素が多い。

 とりわけ、送り出し国の多くでは近年、雇用環境の変化が著しい。コンピューターの普及もあって開発途上国にも最新鋭の工場が建ち並ぶようになり、目覚ましい経済発展によってサービス業などでも雇用が創出されている。母国や周辺国で仕事が見つかるようになった今、言葉の通じない極東の島国に働きに行く必要性は乏しくなってきている。

 しかも、日本以外にも少子高齢化が進み始めた国が増えてきた。コロナ禍の影響も加わって、いまや世界規模で人手不足が顕著となっている。外国人労働者の争奪戦が激しさを増す中、賃金水準が低く、言葉が通じない日本は「魅力の乏しい国」になりつつある。

 政府が「特定技能2号」を拡大する背景には、諸外国に「雇い負け」しないよう待遇改善を図る狙いがあるが、外国人労働者にとって日本の永住権がどれぐらいの価値を持つのかはわからない。永住に道が開かれても、日本を永住先として選ぶとは限らない。すでに、訪日した外国人労働者の中には、賃金がより高い国へと移っていく人が少なからずいる。

 しかも、人口減少に伴う国内マーケットの縮小で日本経済の衰退が懸念される。いまでこそ日本は経済大国の地位を保っているが、人口規模の縮小とともに成長の勢いを失ったならば、多くの外国人から見限られよう。外国人労働者が自身にとってチャンスが大きい国に流れるのは当然だ。

「門戸を開けば多くの外国人が喜んで日本にやってくる」との発想は驕りだ。期待するほどの来日者の規模とならない可能性のほうが大きい。

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