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安全資産・債券投資にもリスクあり 信用力の高い債権を満期まで保有してもインフレ時には実質価値が目減りする

 先ほど実質金利は普段は目に見えないという言い方をしましたが、物価連動債の利回り(元本一定の仮定で計算された利回り)は目に見える実質金利なのです。

 ちなみに、現在日本では、満期まで10年の物価連動国債が国から発行されています。国はいろいろな種類の債券を発行していて、元本が固定された普通の10年物国債ももちろん発行されています。普通の国債利回りは、確定した元利支払額から計算されるものですから、こちらは名目の金利です。

 さて、同じ国が発行する満期まで10年の債券で、物価連動国債の利回り(物価上昇分を無視した計算)が1.5%、普通の国債の利回りが2.5%だとしましょう。この差は一体何かというと、前者は実質金利、後者は名目金利ですから、その差の1.0%は物価上昇率にほかなりません。このインフレ率こそ、債券市場の参加者が予想する今後10年の期待インフレ率に相当するものです。

 これをブレークイーブン・インフレ率と呼んでいて、将来の予想インフレ率として経済分析などで非常によく参照される指標になっています。市場には不思議な将来予測力があり、それは必ずしもいつもその予想が当たるということを意味しているわけではないのですが、現時点で最も信頼できるインフレ率の将来予測と考えることができます。

 なお、インフレによって債券の実質価値が低下するというリスクは投資家が直面するものですが、債券の発行体からすれば、デフレによるリスクが存在します。物価が下がっているのに、普通の債券であれば元本はそのまま変わらないわけですから、実質的な返済負担が高まるのです。パン1個分のお金を借りたのに、返すときにはパン2個分のお金を返さなければならないというようなことですね。

 いずれにしても物価変動は債券の実質価値を変動させ、インフレなら投資家に不利に、デフレなら発行体に不利に働くことになります。

【プロフィール】
田渕直也(たぶち・なおや)/1985年一橋大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行に入行。海外証券子会社であるLTCB International Ltdを経て、金融市場営業部および金融開発部次長。2000年にUFJパートナーズ投信(現・三菱UFJ国際投信)に移籍した後、不動産ファンド運用会社社長、生命保険会社執行役員を歴任。現在はミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役。シグマインベストメントスクール学長。『ファイナンス理論全史』(ダイヤモンド社)など著書多数。

※田渕直也『教養としての「金利」』(日本実業出版社)より一部抜粋して再構成

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