ライフ

【森村誠一さんと歩んだ60年】妻が語る国民的ベストセラー作家の素顔、長者番付1位でも団地で暮らしていた理由

妻が明かす国民的ベストセラー作家・森村誠一さんの素顔とは

妻が明かす国民的ベストセラー作家・森村誠一さんの素顔とは

「入院する少し前、家でふたり過ごしていたとき、ふと『これだけ長く小説を書けたのはお前のお陰だ』と言ってくれたことがありました。60年以上一緒にいて、一度もそんなこと言われたことがなかったから、もうびっくりして。うれしかったですね。その言葉がいまも支えになっています」

 優しい笑顔でそう話すのは、今年7月に90才でこの世を去った作家・森村誠一さんの妻・千鶴子さん(86才)。

 代表作『人間の証明』をはじめとして社会派ミステリーを次々と世に送り出したほか、歴史小説やドキュメントなど幅広いジャンルで半世紀以上活躍し続けた国民的大ベストセラー作家の夫を最も近くで見守り、併走し続けてきた妻が明かしたその素顔から、長く濃厚だった90年の軌跡を辿る──。【前後編の前編。後編を読む

「仕事中なのに夢中で本を読んだり詩を書いていたりするものだから、電話が鳴っても手探りで受話器に手を伸ばすだけ。それに、仕事が終わった後も着替えずに制服のまま帰っちゃうから、ランドリー係にはいつも怒られていて。

“変わった先輩だなあ”というのが第一印象でした。ホテルマンとして優秀じゃなかったことは間違いないですね(笑い)」(千鶴子さん・以下同)

 ふたりの出会いは64年前。千鶴子さんが就職した都市センターホテル(東京・千代田区)のフロントに勤務していた先輩が、森村さんだった。

 最初に声をかけたのは森村さんから。グループ交際から発展し、山頂からのご来光を誕生日プレゼントにするといったロマンチックなデートを重ねていった。親交を深めたふたりは森村さんが28才、千鶴子さんが24才のときに、周囲の反対を押し切って結婚。

 というのも、千鶴子さんはふたりが勤務していたホテルの親会社・新大阪ホテル(現リーガロイヤルホテルグループ)の総支配人の姪で、経済的な苦労を懸念した千鶴子さんの親族は、当初この結婚を素直に応援できなかった。

「実際、主人の手荷物は大量の本だけ。当時は結婚するとき柳行李(やなぎごうり)と呼ばれる大きな衣装ケースを持っていくのがならわしだったのですが、その中にも衣類はなく、本がずっしり。住む場所も『近くに貸本屋と銭湯と米屋があればよし』と。その頃はまさか作家になるなんて思ってもみなかったのですが、本当に本が好きだったんです」

関連キーワード

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。