相続税を廃止する代わりに「資産税」の導入を提言(イラスト/井川泰年)
経団連が昨年12月に公表した「FUTURE DESIGN 2040」が物議を醸している。この中長期ビジョンでは、「段階的に富裕層を含む上位層の所得税等負担の拡充」することで「2034年度には5兆円程度の税収を確保し、社会保険料抑制に充当」できると提言。楽天の三木谷浩史・会長兼社長はXで「経団連終わってる」と反発し、さらに「日本から富裕層は居なくなり、海外で起業する人が増えるだろう。頑張って成功した人に懲罰的重税、正気か」と酷評した。実際、日本から海外への移住を検討する理由として「日本の高い相続税」を挙げる富裕層も少なくない。日本の高すぎる相続税に改善の余地はあるのだろうか。
多くの起業家と交流のある経営コンサルタントの大前研一氏は、富裕層の相続税対策に「松下幸之助さんの社会貢献」を思い出すという。
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現行の過酷な相続税は、日本から富裕層を遠ざけている。その税率は、法定相続分に応ずる取得金額が1億円を超えると1億円増えるごとに40%から5%刻みで55%まで上がっていく。取得金額が10億円なら5億5000万円を納めなければならないのだ。相続税がないシンガポールやオーストラリアなどに移住する富裕層が多いのは、それを避けるためである。
ならば、国や地方自治体、NPO、教育機関などに寄付したら、遺産総額から寄付額の何倍か(現在は等倍)を差し引けばよいのではないか。倍率を10倍とすれば、1億円寄付したら10億円を差し引くのだ。そうすれば、富裕層の多くが早めに寄付を始めるだろう。
ここで思い出すのは、松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助さんだ。私が同社のコンサルタントを務めていた当時、幸之助さんの保有資産が1500億円だとわかったため「相続税で国に半分持っていかれますよ」と伝えたら、経営の神様もその計算をしたことがなかったらしく「世が世なら一揆だ!」と血相を変えた。
そこで私が、ハーバード・ビジネススクールへの寄付を提案したところ、幸之助さんは「よろしおます」と快諾し、100万ドルを寄付した。その結果、同ビジネススクールには1981年に「松下幸之助記念リーダーシップ講座」「松下幸之助教授職」が設置された。
ほかにも幸之助さんは、会社や個人でMIT(マサチューセッツ工科大学)、スタンフォード・ビジネススクール、早稲田大学、東北大学などに寄付している。
三木谷氏もウクライナ政府やガザ地区の子供たちなどに寄付しているが、そうした社会貢献に対し、相続税で今より大きなメリットを与えればよいのである。