弾劾裁判に出席する韓国の尹錫悦大統領(EPA=時事)
韓国の政治的混乱が続いている。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による「非常戒厳」宣言、約6時間後の国会議決による戒厳令の解除が行なわれたのは昨年12月初旬のことだった。その後、韓国国会は大統領の弾劾訴追を議決し、さらに捜査機関が「内乱罪」の容疑で大統領を逮捕・送検し、検察は1月26日に起訴した。日本の新聞・テレビも連日情勢を伝えるが、それらを断片的にウォッチするだけでは見えてこない事柄もある。いま韓国では何が起きていて、今後、日本にはどんな影響があるのか。フリーライターの清水典之氏が識者2人に聞いた。【前後編の前編】
そもそもなぜ戒厳を宣言したのか
捜査機関に身柄を拘束されていた韓国・尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対し、1月19日、内乱を首謀した容疑で逮捕状が発布された。韓国では、大統領が退任後に逮捕・起訴された例は多々あるが、現職の大統領としては史上初めてである。21日と23日には尹氏本人が憲法裁判所に出廷し、昨年12月の戒厳令施行をめぐる弾劾裁判の公判も進んでいる。
尹氏による昨年12月の「非常戒厳」宣言に端を発した今回の騒動は、展開があまりにめまぐるしく、何が起きているのか正直わからないという人も多いのではないか。
最も基本的かつ最大の謎は、なぜ尹大統領は戒厳を宣言したかだ。
韓国国会で過半数を占める野党やメディアからの激しい追及で、国政運営がままならなくなったという背景があるのは間違いないが、それが直ちに「非常戒厳」宣言に結びつくとは思えない。
そんななか、2024年12月12日の談話で、尹大統領が「北朝鮮のハッキングにより、今年4月の総選挙で不正が行なわれた」と述べたとされ、「尹氏は陰謀論にとらわれている」という疑いをもたれているが、実際はどうなのか。『韓国「反日フェイク」の病理学』(小学館新書)の著書がある作家の崔碩栄氏はこう言う。
「尹大統領がなぜ戒厳を宣言したのかは、保守派の中でも謎のままです。国会を掌握した野党が暴走し、大統領の意思通りに国政運営が進んでいなかったのは事実ですが、戒厳を宣言する必要があったのかは、保守派の中でも懐疑的な意見が多い。ただ、YouTubeなどの陰謀論を大統領が信じていたという話は、反尹派が広めている噂に過ぎません。朴槿恵氏の弾劾のときも、迷信を信じているといった噂が流されましたが、後にすべて虚偽であったことが判明しています」