生活習慣病と慢性炎症の関係
高血圧と炎症の関係も明らかになってきました。収縮期血圧が100mmHg以下に血圧が下がると、腎臓からレニンという酵素が血液中に分泌され、血液の中を循環しているタンパク質のアンジオテンシノーゲンを分解し、アンジオテンシン1というホルモンになります。その後さらに分解されて、非常に活性の高いアンジオテンシン2というホルモンになります。このアンジオテンシン2が活性化すると、血管の壁を収縮させて血圧を上昇させます。また、アンジオテンシン2は副腎を刺激し、アルドステロンというホルモンと下垂体を刺激してバソプレシン(抗利尿ホルモン)を分泌させます。アルドステロンは、腎臓に作用してカリウムを排出することでナトリウムを吸収させるので、水分を貯留させるため血液量が増加して血圧を上昇させる働きを担います。
アルドステロンは飢餓状態の時でも身体に必要なナトリウムを蓄え、血圧を保つ働きを担っていますが、近年の研究で酸化ストレスや炎症、線維化を起こし動脈硬化を促進させることが明らかになっています。また、肥満を伴う2型糖尿病患者では、脂肪細胞から炎症性アディポサイトカインが分泌され慢性炎症を引き起こし、インスリンの感受性を妨げることで、インスリン抵抗性を亢進させると考えられています。
血圧が下がると腎臓からレニンが分泌され、血中のアンジオテンシノーゲンを分解し、さらにアンジオテンシン1、アンジオテンシン2を分解する。AT受容体によって血管の収縮や拡張が起こり、血圧を調整している
生活習慣病が進行すると血管内で細胞死が起こり、さらに老化細胞も発生して、それらの細胞がゴミとなって血管内に溜まります。そのゴミを掃除しようと免疫細胞がたくさん集まることによって動脈硬化が進行するのです。
このようにして動脈硬化が進んだ血管の内部では、細胞のゴミやマクロファージの集積や、異常な血管ができる血管新生が起こり、そこに脂質が溜まってプラークが形成されます。プラークを覆う膜が薄くなると血管の内部でひび割れをおこして破裂し、血栓ができて血管を詰まらせます。心臓の冠動脈で発生すると心筋梗塞になり、血液が流れなくなった部分の心筋細胞が壊死して不整脈や心破裂、心不全が生じて、命の危険にさらされます。一般的に心筋梗塞は、冠動脈にコレステロールなどの脂質が溜まる血管狭窄よりもプラーク破裂の方が多いのですが、動脈硬化の初期段階では血管が外側に向かって広がっているためではないかと考えられています。また、形成された血栓が剥がれて血液に乗り、脳に運ばれると脳梗塞に繋がります。
ちなみに、狩猟生活をしていた太古の人間にとって、血栓はケガによる失血を防ぐ役割が大きかったのですが、飽食の時代に入ると大量の脂質が血管内を流れるようになりました。その結果、大量の血栓が発生し、重篤な病気を発症する元凶になったのです。
プラークは大きくても固く安定していれば大丈夫だが、柔らかく不安定なら心筋梗塞が起こる可能性もある
「アディポサイトカインが慢性的な炎症を引き起こし、血管にダメージを与えている」と語る佐田政隆教授
【プロフィール】
佐田政隆(さた・まさたか)/徳島大学大学院医歯薬学研究部教授。1988年東京大学医学部卒業。米国Case Western Reserve大学医学部生理学教室、同Tufts大学St. Elizabeth病院心血管研究所に留学。東京大学医学部附属病院を経て、2008年徳島大学大学院医歯薬学研究部循環器内科学部門教授に就任。「すべてのことに積極的に取り組む」方針を掲げ、日夜診療、研究、教育に向き合う。
取材・文/岩城レイ子