相互関税政策の交渉はトランプ大統領の想定通りなのか(Getty Images)
米国株市場は再び上昇に転じるのか──。NYダウは「4月7日に付けた場中安値が大底ではないか」と考える市場関係者が増えてきたが、一方で、今回の急落局面で指摘された大きなリスクが消失したというわけではない。
米国債(10年物)は世界で最も安全な資産のひとつと見なされている。あらゆる金融商品の価格形成の基礎となり、信用秩序の頂点に位置付けられるような資産だが、長年にわたる深刻な財政赤字のために、供給圧力が構造的に高まっている。
米国財政収入から財政支出(ただし、国債などの利払いを除く)を差し引いた値であるプライマリーバランスをみると、2002年以降赤字が続いている。このプライマリーバランスをGDPで割った値をみると、リーマンショック直後の2009年にはマイナス11.29%を記録した(出所:IMF)。その後いったん回復したものの、新型コロナウイルス感染拡大の2020年にはマイナス12.1%まで落ち込んだ。2024年はマイナス3.56%と最悪期と比べればマシな状況だが、黒字化には程遠い。
赤字分は国債によって埋め合わされることになるのだが、国債の供給が増え続ける中で、米中関係の悪化などから大口の中国が保有残高を減らす姿勢を鮮明にしている。中国の台頭や、ロシアのウクライナ侵攻に対する米国の金融制裁による副作用なども加わり、基軸通貨としてのドルに対する信頼が失われている面もあり、外国勢の購入意欲は高まらない。その分、FRB(連邦準備制度理事会)による購入負担が高まっている。
構造的に需給が悪化する中で、トランプ政権が打ち出した相互関税政策がコストプッシュ型インフレや、グローバルサプライチェーンの混乱、相手国の報復などによる景気減速リスクを高めている。また、トランプ大統領によるFRBの独立性を侵害するような発言がドルへの信用低下、インフレ懸念を強めている。
加えて、トランプ政権は2025年末に期限が切れる減税政策を延長したい意向を示しており、財政赤字のさらなる拡大が予想される。
こうした逆風に追い打ちをかけるかのように2025年6月には米国債の償還が集中する。その借り換えで、入札がうまく集まらず、利回りを引き上げざるを得ないような事態になれば、ドルへの信用低下が加速しかねない。