ジャン酎モヒートを定義する
朝一番の酒としてこれ以上のものがあるだろうか
「ナマズがあるじゃないですか! 僕、ナマズ大好きなんですよ」
ケンちゃんは北関東にルーツがあり、ナマズ料理には幼少期から馴染みが深いという。「まるます家」の名物は、店の看板にもあるように鰻と鯉で、そこにナマズが加わると、河川や湖沼で獲れる三大美味みたいな様相になってくるけれど、なに、三大なんてのは所詮大袈裟な形容句だ。だってさ、ドジョウに鮒に鮎、渓流へ向かって行けば、ヤマベ、ハヤ、ウグイ、そして、ヤマメ、イワナと、うまいものはいくらでもある。そうそう、スッポンも、水のきれいなところじゃないとダメだと聞いたことがある。
海からちょっとばかり遠い土地で淡水の魚類を食べたのは、食が豊かでなかった時代に淡水魚が貴重なたんぱく源であったからというもっともらしい説明をよく目にするが、私は単に、うまいから喰ったのだと思っている。鯉のあらい、鮒の味噌煮、ドジョウの柳川、鰻の蒲焼、それからナマズの唐揚げ。鮎だって串焼きだけでなく、焼きびたしやら甘露煮など保存のきくものにしたのだって、ご飯のおかずとして最高だし、それはつまり、絶好の酒の肴になる。
ケンちゃんのナマズ大好き宣言に触発された私は、本日の昼酒の酒肴を、淡水魚と決めた。飲むはジャン酎モヒート。注文を取りに来てくれたお姐さんに告げる。
「ジャン酎モヒート。それから、鯉こく、鰻の蒲焼、ナマズの唐揚げ……」
お姐さんがメモから顔を上げて以上ですかという表情をした刹那、
「それとね、あーのー、えーっと、イモの……」
「里芋の唐揚げ」
「それ」
姐さん、ニコッと笑う。私はそれだけで嬉しい。
「イモだけで通じるんですね」
「そうなんだ、まあ、場数だね、これも」
バカズというよりバカであるが、鯉と鰻とナマズと里芋である。はからずも私の再春館製薬というべき取り合わせになった。私が張りを持たせたいのはお肌ではないけれど、若返りたい気持ちにかわりない。
ジャン酎モヒートとはなんぞや。人生とは何か、人間とは何か。日々そうした哲学的思考を酔った頭に浮かべてはかき消している私にとって、ジャン酎モヒートを正確に定義できるか、甚だ疑問であるが、ひとまず試みる。
ジャンは、ジャンボである。なにしろ、供される「ハイリキ」ボトルは1L入りとでかいので、ジャンボなのだ。そして酎は、焼酎の酎を意味する。ハイリキとはすでに出来上がっている酎ハイで、レモン味とプレーンがあるが、いま頼むのは、プレーンのほうだ。そんでもって、モヒートだが、これはホワイトラムにライムの汁とミント葉っぱを入れて、少し甘みをつけてソーダを加えたカクテルの名前だ。それで、ハイリキのプレーンというのは、ラムと同じホワイトスピリッツの焼酎をベースに甘みとソーダを加えた飲み物だ。ここに、ライムとミントを足せば、ジャンボ酎ハイを下敷きにした我が国固有のモヒートが完成するのだ。こんなところでご理解いただけただろうか。
説明はこれくらいにして……。