中国のレアアース産業が強いのは国家戦略が影響している(中国・北京。Getty Images)
中国株の第一人者・田代尚機氏によるプレミアム連載「チャイナ・レポート」。中国のレアアース産業のこれまで歴史とその強さの秘密について紐解く。代表的な上場企業も紹介する。
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レアアースと先端半導体。どちらもハイテク産業の発展には欠かせないが、不足がより厳しいのは前者の方であろう。
レアアースとは、元素記号表上、左から3列目となる希土類に分類され、第4周期のスカンジウム(元素記号:Sc、原子番号:21)、第5周期のイットリウム(Y、39)に第六周期のランタノイド15元素(原子番号57のランタンLaから71番のルテチウムLuまで)を加えた合計17の元素の総称だ。ランタノイド15元素についてはさらに細かく、ランタン(La)から原子番号63のユウロビウム(Eu)は軽希土類、64番のGdから71番のLuは重希土類に分類される。いずれの元素も、鉱物の中に少量しか存在しておらず、品質の良い資源は一部の国に偏在する。技術的に抽出、分離が難しく、鉱物の中に放射性元素を含むこともあり、環境への配慮が欠かせないため、製造コストが極めて高い元素である。
中国は4月4日、スカンジウム、イットリウム、1つ(サマリウム)の軽希土類、4つ(ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム)の重希土類など合計7元素について、輸出管理を実施した。いずれも、中国のシェアが高く、他国からの代替が難しいレアアースだ。対象は金属、合金、酸化物、化合物からレアアース製品にまで及び、これらを輸出する場合には、商務部に申請し、許可を得る必要がある。
レアアース規制の最大の問題は、これらの元素が添加剤、原材料の一部となって作られる製品がハイテク産業や、国家が戦略的に発展を推し進めたい将来有望な産業において、なくてはならないものであるからだ。
たとえば、テルビウム、ジスプロシウムは、希少な重希土類の中でも特に資源が少なく、供給量の9割以上を中国に依存しているが、これらは高温環境での作動が求められるEVモーターなどで必要不可欠となるネオジム磁石の添加剤として使われる。AI開発には大量の情報処理が必要だが、高い耐熱性が求められる超高性能HDD(データセンター向け大容量ストレージ)の磁性材料の添加剤としても使われる。
サマリウムは耐腐食性・耐熱性に優れるサマリウムコバルト磁石の材料として使われる。この磁石は高温環境で使用される産業用ロボットや、航空宇宙の分野で使われる。
イットリウムは精密加工ロボットの重要部品である固体レーザー(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)として使われるが、現在研究開発が進む全個体電池の添加剤や、量子コンピュータに用いられる強磁性体(イットリウム鉄ガーネット単結晶)の材料などにも使われる。
量子コンピュータに関して言えば、カドリニウムが磁気作業物質(フッ化リチウムガトリニウム)の材料として使われる。