アメリカでも富裕層の子ほど学力テストの点数が高い
ところがだ。『実力も運のうち』にはこうもある。
「SATの得点は家計所得とほぼ軌を一にする。生徒の家庭が裕福であればあるほど、彼や彼女が獲得する得点は高くなりやすいのだ」
SATとはアメリカの大学受験で使用される共通学力テストのことだ。
アメリカの最難関大学の入試は、SATの点数と高校の成績、そして活動実績で合否が決まっていく。
この中で、学力テストであるSATの点数は富裕層の子どもほど高いとサンデルは指摘している。その理由もこの本には書かれている。富裕層は子どものSAT対策に課金していくからだ。
「マンハッタンなど一部の地域では、一対一の(SAT対策)個人授業の料金は1時間1000ドルにも上る場合がある」と書き、これらのSAT対策産業は「10億ドル規模の産業となった」とも書かれている。
1時間1000ドルは円に換算すると15万円だ。
これを読んで、「アメリカで富裕層の子どもが名門大学受験で有利なのは単に学力が高いからでは」という疑問を私は持ち、調べてみると、それを裏付けるデータが出てきた。
大学入試センター・シンポジウム2021「COVIDの災禍と世界の大学入試」で、川村真理氏(文部科学省科学技術・学術政策研究所上席研究官)の発表によると、コロナ禍でSATが実施できなくなって学力テストの成績が評価されなくなると、名門校の合格者に低所得層家庭の高校生が増えたとある。
「経験がすべて」なら富裕層が有利なのでは
どういうことだろうか。
仮に「アメリカの大学入試は経験がすべて。留学やスポーツなどキラキラした活動実績がある富裕層に有利」ならば、SATのスコアが評価されなくなれば、活動実績が重視され、豪華な経験をたくさんしている富裕層の学生が増えたはずだ。
このデータから分かるのは、富裕層の学生が名門大学への進学に強い理由は、塾や家庭教師の管理の下で「ガリ勉」をしてきたからだということだ。
アメリカの名門大学への進学対策では「スポーツをさせるのが大切、ひ弱なガリ勉を大学は欲しがらないから」と盛んにいわれる。実際、アメリカで富裕層の子どもが通う学費が高い名門高校ではスポーツや演劇などをたくさん経験させる。しかし、それらの経験を実は大学が評価していなかったようにも見えてくる。
今回は「一般選抜ならば公平か」という言説を検証するために、すべてが総合型選抜であるアメリカの大学入試制度の話をした。
「アメリカの大学入試は経験がすべて。キラキラした経験をさせてもらえる富裕層の子供が大学入試では有利だ」という説がまことしやかに流れているが、実際には彼らが受験で強いのは、塾や家庭教師の学力テスト対策の指導を受け、ガリ勉をして、共通学力テストのSATで高得点を取っているからのように見える。
次回は、この「アメリカの富裕層の子供が大学入試で有利なのは学力が高いから」という説をもう少し詳しく見ていきたい。
■第2回記事:《「一般選抜は公平だ」は本当か?アメリカも日本も難関大受験で強いのは「重課金された」富裕層の子供 一発勝負のペーパーテストにこそ潜む教育格差》に続く
杉浦由美子氏の著書『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(青春出版社)
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/受験ジャーナリスト。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『大学受験 活動実績がゼロでいい 推薦入試の合格法』(青春出版社)が2025年4月に発売。『ハナソネ』(毎日新聞社)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)で連載をし、『週刊東洋経済』『週刊ダイヤモンド』で記事を書いている。受験の「本当のこと」を伝えるべくnote(https://note.com/sugiula/)のエントリーも日々更新中。