業務用の「むきタマネギ」9割が中国産
業務用に加工された農産物で人気があるのが「むきタマネギ」です。根と茎を切り落とし皮をむいて可食部だけにしたもので、食品製造業や飲食店で広く使われます。皮をむく手間が省け、ゴミが出ず、歩留まりがいいからです。国産の供給量は少なく、9割方中国産とみられます。
この輸入頼みの危うさがコロナ禍で露呈しました。異変が起きたのは、2022年4月でした。
「むきタマネギの製造工場が集中する中国・山東省の街が、新型コロナの感染拡大でロックダウンしたんです。国内で流通するむきタマネギの90~95%くらいが中国産という状況なのに、3週間ほど、ごく少量しか輸入できなくなった。それで、価格が倍くらいまで高騰しました」(木村さん)
中国からの輸入が止まったうえ、国内最大の産地・北海道が天候不順で不作になり、タマネギの国内流通量は急減しました。北海道産の価格は、東京都中央卸売市場の卸売価格で平年はキロ100円前後でしたが、同年4月末に400円近くまで値上がりしました。青果流通に40年以上携わる木村さんは、「北海道産があそこまで高くなったのは初めて」と振り返ります。
国内では、中国産ほど大量で質のそろった冷凍野菜を安定した価格で調達することが難しい状況にあります。冷凍野菜の製造工場は、「15年ほど前まで国内にそこそこあった」(木村さん)と言います。ですが、食品会社が円高や人件費の高さなどを理由に海外から調達するようになったことで、数を減らしてしまいました。
中国産の価格上昇で見直される国産
「輸入に伴うリスクは、これから下がることはなく、背負っていかなければならないのだと痛感したんです」
こう話すのは、前出・木村さんです。
「加えて、たとえば北海道のホクレンでは国内でむきタマネギの契約生産をしていますが、近い将来、中国産とそんなに変わらない価格になるかもしれないという情勢になってきました」
コロナ禍を経て中国はかつてない不景気に見舞われていますが、その最低賃金は据え置きか上昇を続けています。地方都市ほど賃金の上昇は続くはずで、農産物の生産や加工に関連した人件費が今後下がるとは考えにくいです。
日中の為替レートは、短期的な上がり下がりはあるものの、長期的に見ると円安・元高の傾向にあります。しかも、中国でロックダウンによる感染拡大の封じ込めを図った「ゼロコロナ」政策やその急な緩和が混乱を招くなど、今後の安定供給には疑問符がつきます。それだけに実需者は、中国から輸入を続けるリスクを考え直すようになっています。
ところが、こうした実需側の変化が「国内の生産現場に伝わっていない」と木村さんは不満顔です。
「自分の周りだけ見るんじゃなくて、国内の市場がどう動いているかを見ないとダメ。なかでもタマネギやカボチャといった輸入が多い野菜は、海外の市場まで見ないとダメですよ」
業界関係者の集まりや、生産者や生産組織との交流の場があると、口を酸っぱくしてこう説いているといいます。
木村さんは、原料の国産化を考えるうえでのキーワードは冷凍だと断言します。
「冷凍食材の需要は、これからまだまだ格段に伸びる。消費者向けと業務用に分けた形で、生鮮と冷凍の供給を同時並行で進めていくべき」