本人の意思能力とは、「どの不動産を、いくらで、誰に売却するか」を理解し、決定する意思能力を指す。認知症の悪化で本人に意思能力がないと判断されれば、たとえ実の子であっても代理で売却することはできない。A氏にとって幸運だったのは、施設への入居前、意思能力がはっきりしていた時点で自宅売却について司法書士との面談を済ませていたことだ。
「父がホームに入居する前に司法書士を交えて自宅売却の相談をしたことがあり、その時点で話はスムーズに進みました。入居後の現在は、当時の記憶も曖昧になり始めたようで心配しましたが、最終的には関係者が納得する形で意思表示ができました」(A氏)
東京国際司法書士事務所の代表司法書士、鈴木敏弘氏が言う。
「一般的に不動産の売却時は司法書士など多くの人間が関わり、本人の意思確認を行ないます。買い手がローンを組む場合は金融機関が間に入り、手続きはより厳格になる。その際、本人との面談で不審な点があれば売却は困難となり、成年後見人を立てなければ手続きが止まってしまうケースも十分想定されます」
親が施設入居後に実家が空き家になることが見込まれる場合、意思能力があるうちに動き出さなければ、「売却したくてもできなくなる」と肝に銘じたい。
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※週刊ポスト2025年10月31日号