フェラーリらしさを日常で楽しむために
2022年11月、本国での発表から数ヶ月遅れての日本初登場でした。フェラーリ初の4ドアスポーツカーは、圧倒的な注目度の中、世界遺産である京都の仁和寺で日本初公開されたのです。その姿は全長5mに近く、全高は1.6mであり、フェラーリとすれば相当に高いのですが居住性確保には貢献しています。さらに荷室までたっぷり(フェラーリにしては)と用意されています。車重は2.2tであり、これまた『軽さこそ正義』と考えてきたスポーツカーファンやフェラリスタの期待をしっかりと裏切ってくれていました。すでにカタログ段階で『フェラーリらしさ』にわずかな陰りを感じさせるスペックが並んでいたのです。
そんなイメージを抱いたまま、目の前に登場した「プロサングエ」を見ました。フロントにエンジンを積むロングノーズ・ショートデッキのスタイルは、少し背は高いものの、不思議と違和感はありません。スーパースポーツといえば「ミッドシップ・スポーツカー」を想起する人に取ってみれば、少し疑問かも知れません。しかしフェラーリの歴史の中にはロングノーズに12気筒エンジンを押し込んだ、美しく贅沢な『ラグジュアリーGT』を送り出してきています。その流れに従えば納得出来る仕上がりだし、なにより全身から発散されるオーラにはフェラーリが長年守り続けてきた『らしさ』があります。
そのフィールは走り出してからさらに輝きます。725馬力のV12にフルスロットルを与えることなど、日本の一般路ではほとんどないかもしれませんが、一方でごくごく普通の走行であっても、このエンジンはジェントリーらしさを保ちながら、一瞬のすき、例えば高速道路の合流路線でも、あっと言う間に異次元の加速を見せます。アクセルと踏み込んでやると、まさにサラブレッドが鞭を当てられたかのように、歓喜のエンジン音がとどろき、周囲の風景を置き去りにします。その幸福感は、ほんの一瞬かもしれませんが、ドライバーに得も言われぬ幸福感を与えてくれます。
その幸せ時間は高速道路からワインディングへと舞台を移して継続。コーナリングでもフェラーリらしさをすぐに伝えてくれる。車高が少しばかり高く、ホイールベースが少々長いのですが、そのレスポンスは実に敏感。ステアリング操作に遅延なく反応し、コーナリングの心地よさを、実にダイレクトにドライバーへと伝えてくれるのです。そして、その気持ち良さは独りよがりではありません。
「フェラーリ・アクティブ・サスペンション・システム」は高度な電子制御によって同乗者にもアクティブな動きの心地よさを的確に伝え、心地いい走行感を演出してくれるのです。走り出す前に抱いていた、車重や重心の高さによるネガティブな推測は、ここで完全に払拭されることになったのです。仮に懸念することがあるとすれば、日本の狭めのワインディッグでは対向車への気づかいが必要になる点かもしれません。
数日間、プロサングエと付き合ってみると、もちろん価格のことは度外視してですが「心穏やかにフェラーリV12を味わうにはちょっと欲しいなぁ」とさえ、思うようになっていました。やはりフェラーリならではの魔性が潜んでいました。