創業69年目の火災を乗り越えて
ザーサイはビールにも紹興酒にも芋焼酎にもあう名脇役だった
芋焼酎の水割りをもう1杯追加して、70周年記念の、鶏そばとやきめしのコンビも頼んだ。特製の鶏そばはしょうゆ味の上品なスープに細麺がよくからみ、スルスルと喉越しもいい。私は、豚骨ベースの九州ラーメンを好物としているが、この鶏そばは、豚骨ラーメンとは違う、中華そばの趣がある。シャキシャキしたもやし、ほどよい大きさで味の染みたチャーシュー、見た目にはあまり自己主張をしていないが絶妙のアクセントになっているメンマ、どれをとっても、すばらしいのだ。
レンゲでやきめしをとり、口へ運ぶ。焼き豚とネギと玉子のバランスがいい。米は適度にパラパラ、こんがりと焼きあがっていて、実にうまい。小椀ではなく、皿にいっぱい、単品でもらえばよかったと後悔する。
平素は一緒の飲み友ケンちゃんがいたなら、やきめし単品のほかに、揚げ焼きそばなんかも追加してシェアしたいところだが、残念ながら小倉まで呼び出すわけにもいかない。
鶏そばとやきめしを黙々と食べた私は、残りの芋焼酎を、ごくわずかに残しておいたザーサイをつまみに飲む。
私が入店するときに幾人か、店の前に並んでいる人がいたが、客が少しずつ入れ替わった今も、入口の外にはやはり何人か、お待ちのようである。つまり、客足は絶えることなく続いているのだ。
それが人気の証し。なんとも喜ばしいことだが、それには格別の理由もある。
この店は、現在の場所からも近い「鳥町食道街」で創業以来、営業していた。2024年の1月3日、この「鳥町食道街」は火災で焼失したのである。創業から69年目の出来事を、現代の当主を先頭にして乗り越え、新しい本店での営業再開に漕ぎつけたのだ。
70周年の記念は、復興の祝いでもある。そんな時期に小倉を訪ね、昼からうまい酒を飲み、抜群の料理を味わえた。東京から明石、明石から小倉へ、長い旅の疲れも吹き飛ぶ、最上級の昼酒御免! であった。
小倉を訪れた際は多くの著名人が愛した味をご賞味あれ(「耕治」福岡県北九州市小倉北区魚町2-4-4)
【プロフィール】
大竹聡(おおたけ・さとし)/1963年東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒。出版社、広告会社、編集プロダクション勤務などを経てフリーライターに。酒好きに絶大な人気を誇った伝説のミニコミ誌「酒とつまみ」創刊編集長。『中央線で行く 東京横断ホッピーマラソン』『下町酒場ぶらりぶらり』『愛と追憶のレモンサワー』『五〇年酒場へ行こう』など著書多数。「週刊ポスト」の人気連載「酒でも呑むか」をまとめた『ずぶ六の四季』や、最新刊『酒場とコロナ』が好評発売中。

