リクルートの卒業文化
――ライバルは紙の「じゃらん」?
宮内:いいえ。リクルートの営業は、自分の会社のことと同じくらいお客さんのことを考えるんですよ。それで、それぞれの旅館やホテルにとって、紙とネット、どちらがお客を呼べるか、どちらをどう使ってもらったらよいか提案します。
そこはリクルートの「卒業文化(*退職を『卒業』と呼び、退職金制度などで早期の退職を促すリクルートの社風)」と関係があると思うんですね。卒業し自分も起業する未来が常に頭のどこかにあるので経営目線でお客さんと対峙します。
また、卒業文化は、一生、この会社にいるわけでないから、自分のポジションを過度に守らなくていい。「自分の気持ちにオネスト(正直)であろう」と考えられるんです。
――定年までしがみつこうと思うと、いろんなしがらみが生まれて白を黒と言わなければならない場面もあります。
宮内:はい。今は分かりませんが、私が在籍していたときは、多くの人は、卒業を意識しながら働いていました。それが文化なので、疑いもしませんでした。
何年かリクルートで働いた後、卒業し起業を意識してる人も多いので、お客さんのために行動し、かつ自社の利益を追求する、経営者目線で数字を作る筋肉を鍛えるんです。また、卒業文化は、新しい業務へのチャレンジや別部署への異動希望を会社がポジティブに捉えてくれることにも繋がっています。おっしゃるように、世間にはしがらみというか、難しいこともあるんでしょうが、私はリクルートでも今の会社でも、そういう曇った世界にいたことがなくて、「宮内さん、そんなに簡単じゃないんだよ。いろいろ、難しいんだよ」という人に対しては「大変ですねえ」と返すしかなくて。
――大変なんですよ、ふつうの会社は(笑)。
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【後編記事】では、宮内氏がリクルートからスカイドライブへと移った理由を掘り下げていく。
【PROFILE】
宮内純枝/「スカイドライブ」CEO室長。1992年にリクルート入社。旅行予約サービス「じゃらんnet」などのブランドマネージャーを担当するなど、編集、ブランディング、ネットマーケティング、提携、R&D分野で活躍。2014年にマーケティング部門のマネージャーに着任。カンヌライオンズ、グッドデザイン賞など受賞多数。グロービス経営大学院にてMBA取得。株式会社SkyDrive、共同創業者。
大西康之/ジャーナリスト。1965年生まれ、愛知県出身。早稲田大学法学部卒業後、日本経済新聞社に入社。欧州総局(ロンドン)、編集委員、「日経ビジネス」編集委員などを経て2016年4月に独立。著書に『稲盛和夫 最後の戦い――JAL再生にかけた経営者人生』『会社が消えた日――三洋電機10万人のそれから』(いずれも日経BP)、『ロケット・ササキ――ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』(新潮社)、『東芝 原子力敗戦』(文藝春秋)、『起業の天才!――江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(新潮文庫)、『最後の海賊――楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)など。最新刊は『修羅場の王――企業の死と再生を司る「倒産弁護士」142日の記録』(ダイヤモンド社)。