武論尊氏の秘話発掘インタビュー
『北斗の拳』(集英社)や『サンクチュアリ』(小学館)をはじめ、数々のヒット漫画で原作者を務めた武論尊氏(78)が新著『悪と嘘を描く 武論尊の漫画原作私論』(小学館新書)を上梓した。半世紀にわたって100作品超の漫画原作を手がけ、いまなお現役原作者として活動する武論尊氏に歴史的名作の誕生秘話を聞いた。【全文】
目次
初めてのヒット作となった『ドーベルマン刑事』
「思えば、運の良さだけでこの半世紀を生き延びてきた。そんな人生だった気がします」
そう振り返るのは、武論尊氏本人である。意外なことに、漫画原作者という仕事を志したことは一切なく、この世界に足を踏み入れることになったきっかけは、まったくの偶然だった。
「長野県佐久市の中学校を卒業した後、自衛隊に入った。そこで親友になった同期の1人が、後に『少年ジャンプ』(以下『ジャンプ』)の人気作家になる本宮ひろ志先生。俺は自衛隊に7年いたが、先に辞めてすでに連載を持っていた本宮先生から『お前、どうせヒマだろ。仕事を手伝ってくれ』と連絡をもらった。いま思えば、それが人生の大きな分岐点でした」
本宮プロに潜り込んだ武論尊氏は1972年、読み切り作を発表。創刊間もない『ジャンプ』で原作者デビューを果たす。3年後の1975年、初めてのヒット作が生まれた。44マグナム弾を駆使し、凶悪犯罪を解決に導く型破りな刑事、加納錠治が主人公の『ドーベルマン刑事』(作画:平松伸二)だ。
高校時代から期待の新人として注目されていた平松氏は当時、まだ20歳。「最初は絵に集中させたい」という『ジャンプ』編集部の意向で、武論尊氏が原作を担当することになった。
「編集部からのリクエストは、当時テレビドラマで人気を博していた『必殺仕置人』のような勧善懲悪の物語だった。だが、いくらプロットを出してもOKが出ない。これでダメならもう辞退するしかないという追い詰められた状況で思い浮かんだのが、1本の映画だった」
その映画とは、クリント・イーストウッド主演の『ダーティハリー』。職務を遂行するためなら、法や規律を逸脱することも厭わないアウトロー刑事が主人公だ。
「自衛隊出身の俺は銃器に関する知識が多少あり、映画には興味を持っていた。最強の銃を駆使する刑事が巨悪と対峙する本格的なバイオレンス・アクション。平松先生の画風とも相性がいいと感じたね」
武論尊氏は当時、新聞記事のスクラップを日課としており、実際に起きた事件に着想を求めることが多かったという。
「世の中の不条理や、残酷な真実を直視するストーリーが、“友情・努力・勝利”をコンセプトに掲げていた当時の『ジャンプ』のなかで独自の価値を持っていたのかもしれない。暴力的な描写が多く、PTAには問題視され続けたけれども、個人的には多くの学びがあった、思い出深い作品です」
