築地再開発計画MAP(イラスト/井川泰年)
築地市場跡地でスタートする大規模再開発「築地地区まちづくり事業」。総事業費約9000億円という巨大プロジェクトだが、経営コンサルタントの大前研一氏は「大失敗するのではないかと危惧している」という。いったいどういうことか。かつて築地市場跡地の再開発アイデアを石原慎太郎・都知事(当時)に提案していたという大前氏が、今回の再開発計画がはらむ問題点を指摘する。
かつて石原慎太郎氏に提案した再開発アイデア
「跡地ではこれからの時代にふさわしいまちづくりを進める。新たな魅力を発見してもらいたい」
小池百合子東京都知事は3月に東京都庁都民ホールで開いた築地市場跡地の再開発について語り合う「築地まちづくりシンポジウム」でこう挨拶した。しかし、私はこのプロジェクトが大失敗するのではないかと危惧している。
理由を説明しよう。
昨年8月に公表された基本計画によれば、約19万平方メートル(東京ドーム4個分)の都有地に屋内全天候型の多目的スタジアム、MICE(国際会議場や展示会)施設、ホテル、オフィス、シアターホール、住宅、店舗など合計9棟を整備する。
事業者は三井不動産、トヨタ不動産、読売新聞グループ本社を中心とする11社の「築地まちづくり株式会社」で、総事業費は約9000億円。2年後の2028年度から本体工事に着手し、2029年度から2030年代後半にかけて順次開業する予定だ。
この基本計画を読む限り、築地という貴重な都有地を発展させようとする構想力も気概も全く感じられない。数十年前のコンセプトを寄せ集めて“幕の内弁当”風に詰め合わせただけである。
もともと私自身、築地市場跡地の再開発についてはアイデアがあり、それを都知事になって間もない石原慎太郎氏に提案したところ、前向きに取り組もうという話になった。そのコンセプトは、築地を晴海や豊洲の都有地と一体的に開発して「日本のシリコンバレー」にするというものだった。
“本家”のシリコンバレーの特徴は3つある。1つ目は「出会いの場」だ。シリコンバレーはスタンフォード大学の優秀な学生同士が出会い、そこに投資家や企業が加わって起業を支援するIT産業の“聖地”になっている。そういう環境を作ることが将来有望なスタートアップを増やすためには極めて重要なのである。
2つ目は「24時間都市」だ。前述した人たちの生活サイクルは朝起きて昼仕事をして夜寝るという普通のパターンだけでなく、昼ごろ起きて深夜まで仕事をする、夜中に仕事をして昼間は寝ているといった多様なパターンがある。だから、眠らない24時間都市という要素は欠かせないのだ。
そして3つ目は「職住近接」。シリコンバレーで働いているエンジニアの大半は、通勤時間が徒歩や自転車や車で10分~15分だ。さらに、周辺には美味しい飲食店も豊富にあること――これらの条件を満たせる広い土地が東京都心で唯一残っているエリアは、築地市場跡地しかないのである。
そういう青写真を実現するためにはシリコンバレーのスタンフォード大学に相当する“キーテナント”が必要となる。その最有力候補が慶応義塾大学だった。
そもそも築地は、福沢諭吉が蘭学塾を開いた慶応発祥の地(現在の中央区明石町)で、そこには今も記念碑がある。当時、私が慶応義塾の安西祐一郎塾長に「築地に戻ってきませんか?」と持ちかけたら大乗り気になり、慶応出身の矢田美英中央区長も賛同した。しかし、この構想は様々な要因による紆余曲折があり、結局、頓挫してしまった。
最大の問題は石原知事を取り巻く人々の微妙な構図だった。担当の副知事は前向きだったが、もう1人の副知事は都有地を別の目的に利用しようとしていた。かてて加えて矢田区長は、そもそも市場が中央区の築地から江東区の豊洲へ移転することに反対する立場なので「表立って(跡地の)計画を推進できません」と腰が引けていた。私はシリコンバレーなど世界中の“起業の聖地”を見てきた経験から関係者を説得して歩いたが、徒労に終わった。
