ケチャップたっぷりオムライスは人気メニューだ
ホッピーの中を頼むとき「中身ッ」と言ってしまう
そら豆がうまい。ホッピーという飲み物は、ずいぶん大量に飲んできたけれど、どういう味であるか、うまく表現できない。でも、なんだか、うまい。それは、いいことだろう。
改めて短冊の品書きを眺めれば、私の好きなアジフライ500円。ハムエッグ450円、コロッケやニラ玉はなんと350円。うどん、そば400円、ラーメン450円。ああ! 安すぎる。そら豆を次々に口へ放り込みながらホッピーの中をお代わりする。ちなみに、私はホッピーの中を頼むとき、どうしてか、中身ッ、と言ってしまう。中と外、でいいはずなのだが、なぜか中身、それもちょっと気合を入れて、中身ッ、と言ってしまう。
ふと見ればケンちゃんは大ジョッキハイボールに口をつけている。店は、人が出たかと思うとまた入り、常に満席に近い。お運びをする女性たちが、きびきびとして手際がよくて、やさしそうだ。こんなところにも、昔の食堂が残っていると思う。
川崎は京浜工業地帯のど真ん中。労働者たちが集まり、工場で働き、安い酒場で酒を飲み、食堂で腹を満たした。今も、たくさんの飲食店があり、うまい焼肉屋があり、競馬場も競輪場もある。
大ジョッキのハイボールの2杯目に突入したケンちゃんが、締めにオムライスを食べるという。彼は、オムライスの前を素通りできないのかもしれない。
運ばれてきたオムライスを見て、オレも子供の頃はチキンライスが好きだったなあ、と妙に懐かしい。そのついでか、まだ、7歳くらいの頃に川崎球場に野球を見に来たことを思い出した。サンフランシスコジャイアンツとロッテオリオンズの試合だったか。調べてみると、春のキャンプの一環だったらしい。つまり、練習試合なのだが、なぜ、その試合を観たかといえば、当時のメジャーリーグの大スターであったウイリー・メイズとウイリー・マッコービーという選手が出たからだ。父に連れられて出かけて行った私は、1970年の春はまだ6歳だったはずなのだが、マッコービーの打ったホームランもメイズの打ったセンター前ヒットもよく覚えている。
あの観戦の帰りに、どこで何を食べたか。まるで記憶にない。けれど、外で食べて帰ったのだとすれば、スパゲッティかカレーか、オムライスだったのではないか……。
今から56年前は、日本の高度成長期。丸大ホール本店の、もっとも賑やかで活気に満ちていた時代ではないだろうか。
さて、混み合う店に、長居は禁物だ。蒲田から川崎へと連れて歩いたノスタルジーをリュックに詰めて、令和の街へ戻る頃合いだ。
店前に人が並んでいることも多い人気店だが、回転が早いのでそれほど待たずに入れますよ(「丸大ホール本店」神奈川県川崎市川崎区駅前本町14-5)
【プロフィール】
大竹聡(おおたけ・さとし)/1963年東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒。出版社、広告会社、編集プロダクション勤務などを経てフリーライターに。酒好きに絶大な人気を誇った伝説のミニコミ誌「酒とつまみ」創刊編集長。『中央線で行く 東京横断ホッピーマラソン』『下町酒場ぶらりぶらり』『愛と追憶のレモンサワー』『五〇年酒場へ行こう』など著書多数。「週刊ポスト」の人気連載「酒でも呑むか」をまとめた『ずぶ六の四季』や、最新刊『酒場とコロナ』が好評発売中。

