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快適クルマ生活 乗ってみた、使ってみた
BYD「RACCO」の本当の脅威

航続距離320km、走りも使い勝手も「日本車に十分対抗できる」 BYDの軽EV「ラッコ」に試乗してわかった“本当の脅威”

走りは日本の軽のスーパーハイトワゴンにも対抗できる

 そんな「ラッコ」を走らせてすぐ感じるのは、ボディのがっちり感と発進時の静かさ、そして滑らかさ。乗用車ということもあり、静粛性のレベルは高く、快適です。車重は「300Premium」で1230kgもありますから軽々というより、しっとり。ただモーターならではの160N・mという強力なトルクと、自主規制いっぱいの64馬力(47kW)を発生するモーターによって、市街地でも郊外でも、走りにはもたつきを感じません。

 もちろん剛性感の高いプラットフォームと低重心の安定感ある走り、さらに日常の扱いやすさを優先した穏やかなトルクの立ち上がりによる走りは、上質といえる味で満足できます。また短時間の試乗でADAS(先進運転支援システム)は十分に経験していませんが、その制御は総じてソフト。走り込んでいくほどに「ラッコ」が、軽の乗用車に求められる必要にして十分な味わいを実現していることがわかります。車の性格上、「パワフルさ」を売りにする車ではありませんから、ソフトでしなやかな使い心地は、日本のエンジンを搭載した軽のスーパーハイトワゴンにも対抗できるレベルです。

 正直に言えばライバルとなる国産の軽BEVやスーパーハイトワゴンと比較して、飛び抜けて快適などと、ベタ褒めはしません。コーナーなどでステアリングの操作した際にわずかなギシギシ感を感じることはありますが、剛性は確保されています。初めて軽自動車を造り、平均レベルにまで仕上げたのですから、評価していいと思います。

 一方で「ラッコ」は軽自動車初のSDV(ソフトウェアデファインドビークル)であり、購入後もOTA(Over the Air)による車載ソフトウェアのアップデートが行われ、ユーザーはつねに最新の機能や使い勝手を更新できます。加えてBYDならではの開発速度の速さによって、あっという間に走りを進化させてくるような気がします。

「お手並み拝見」などと言ってはいられない

 改めて試乗している「300Premium」の購入条件を考えて見ました。価格は249万7000円で、CEV(クリーンエネルギー車)補助金15万円(他のグレードも同じ)を差し引けば234万7000円です。35.84kWhの駆動用バッテリーで航続距離は320km。補助金 58万円(全グレード一律)の「サクラ」より40万以上の差があり、不利になります。例えば「サクラ」の最上位モデル「G」のメーカー小売価格は299万8600円で、駆動用バッテリー容量は20kWhで航続距離は180km。補助金を差し引くと241万8600円となり、価格差は8万円ほど。

 ちなみにこうした補助金額は、そのメーカーの「日本の充電インフラ整備ヘの貢献度」や「BEVの整備やサポート体制」、「V2H(Vehicle to Home)やV2L(Vehicle to Load)などの外部給電機能の装備」、そして「部品供給の安定性」などを総合的に評価して決定されます。当然、現状では国産勢が有利になり、高得点のメーカーは最大120万〜130万円台の補助金が適用される一方、インフラ整備や体制が不十分と評価された場合は最低15万円まで減額される仕組みとなっています。

 対してBYDは、急ピッチでディーラー網を整備しています。日本の軽自動車ユーザーは価格だけでなく、ディーラーに対する要望においても“厳しい”ことでも知られています。そうした多岐にわたる要望に対して日本メーカーというか、ディーラーは長年にわたって対応してきました。当然ながら、BYDが予想もしなかった“気になるポイント”を指摘してくることは確実にあるのです。軽自動車ユーザーの心理からすれば、そうした想像もしない“指摘”対してディーラーがどんな対応をしてくれるのか? ちゃんときめ細かに面倒を見てくれるだろうか? 修理や整備で時間はかからないだろうか? さらにリセールはどうか? さらに心配性な人は「駆動用バッテリーの10年20万キロ保証(有償延長保証)はあるものの、撤退はないでしょうね……」などといった、最先端技術とは別次元の懸念ポイントはいくつもあるでしょう。こうした数値では割り切れないアナログな感情も存在しますが、それでも「ラッコ」は、今後を占う試金石の役割を担っていることは確実。

 日本の軽自動車市場といえば乗用車新車販売の約34%を占める市場です。一方で巨大な中国市場からみれば極小とも言える市場ですが、そこにわざわざBYDが投入した「ラッコ」は、まさに尖兵でしょう。現状はホンダの「N-BOX」やスズキの「スペーシア」といった、エンジンを搭載したスーパーハイトワゴンが売れ筋である200万円前後の価格帯で熾烈な勝負を展開しています。この磨き、育て上げられてきた軽自動車市場に対して、BYDがどんな戦略で食い込んでいくか? さらに言えば国産メーカーがこのカテゴリーに乗用BEVを投入してくるのか? 実に興味深い展開ですが、なにより選択肢が増えることは大歓迎だと思います。

 試乗を終え、ある有名なフランスのなぞなぞを思い出しました。「一晩経つと2倍に増える水草が、(池の)水面を覆い尽くす(満杯になる)のに48日掛かります。では水面の面積の半分を覆うのは何日目ですか?」と言ったような問題だったと思います。答えは「前日の47日目」です。設問のスタイルはいくつもの例文はありますが、基本は「指数関数的な成長の恐ろしさ」、さらに言えば「まだ半分だから大丈夫」という油断が、わずか1日で手遅れになることをも、と言った教示です。日本メーカーには油断はないと信じていますが、BYDの「ラッコ」は、間違いなく衝撃波となったはずです。

【写真】5:5の分割式リアシート
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