中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

樹木希林さんに学ぶ、「汚れ役」を引き受ける生き方

 高齢者だからといって全員が立派でもないし、聖人君子でもないし、ましてや美男美女だらけなわけがない。むしろ、日々の仕事やら人間関係が少なくなっているからひがみ根性も出てくるし、自分が社会からニーズがない……と絶望している人だって大勢いるわけですよ。あっ、これは私の親族と実家の近所の人の話です。

 だからこそ、『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)に出てくる素敵な高齢女性(浅丘ルリ子、有馬稲子、五月みどり、野際陽子、加賀まりこ、風吹ジュン、八千草薫)だらけの状況はあまり私自身よく分からない。認知症の母を介護する人などはよく理解できると思うのですが、後期高齢者ともなれば「恋」だの「ステキなおばあ様」でいるより、とにかくキレない、排泄物をまき散らかさない、身近な人に猜疑心を抱かない、といった状況にいることの方がよっぽど周囲の人にとっては有難い。

人間界には必ず汚れ役がいる

 樹木さんが演じてきたような、時に薄汚かったりえげつなかったり貧乏くさかったりする老婆役を演じられる女優がこれから果たして出てくるのでしょうか? 樹木さんは『寺内貫太郎一家』(TBS系)で31歳にして老婆の役を演じました。樹木さん以外に目を向けると、今年92歳で亡くなった菅井きんさんは37歳の時に『必殺仕置人』で「ムコ殿!」と中村主水(藤田まこと)に色々言う姑役を演じました。

 赤木春恵さんも『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)をはじめ、イヤ~な老婆役を演じてきました。でも、現在は94歳。それよりも若い菅井さんと樹木さんが亡くなり、日本の演劇・映画・ドラマ界における薄汚く意地悪で惨め、でも時にハッと本質を突く老婆の役を演じる女優の人材は足りなくなっているのかもしれません。

 そもそも日本のエンタメ界においては、『いじわるばあさん』を青島幸男さんが演じ、ドリフのコントのクソババアはいかりや長介さんが演じてきた。これは、昭和の時代の女優の多くが、年老いた意地悪で薄汚い老婆の役をやりづらかった点が背景にあるのでは。もちろん、そうした役が様々な作品で存在したのは分かるので、映画やドラマに詳しい方からは「○○という映画ではあった!」みたいな反論はあるでしょう。ただ、こうした役柄をキラキラしたスター女優が演じる土壌が果たしてあったのか? ということです。

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