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トヨタの次期社長候補、現社長・章男氏を叱り飛ばした元上司

一兵卒としての経験

 昨年4月2日、章男氏の姿を三重県鈴鹿サーキットに見ることができた。多忙を極める章男氏がわざわざ鈴鹿まで足を運んだのには、理由がある。

 自身が無類のレース好きという以上にこの日は、溺愛する長男・大輔氏のS耐久レースデビューを見届けるためだった。章男氏の登場は会場を沸かせたが、それ以上に長男とのツーショットに収まった章男氏のうれしくてたまらないと言った笑顔が印象的だった。

 慶応大学を卒業後、トヨタに入社。30代になった大輔氏は、電子制御基盤技術部などで経験を積む一方で、先にも触れたようにレーサーとしても知られている。大輔氏の仕事は地味な分野ではあるが、それは章男氏の意向が反映されているという。章男氏は自身が一兵卒として身を置いた現場での経験を息子にさせたいと強く感じているようだ。

 章男氏自身は平社員としてカローラの販売を担当した時、営業成績が悪く、あまりの数字の悪さに時の上司から、「数字を残せないなら(会社を)辞めてもらっていいんだぞ」と怒鳴りちらされた経験を持つ。豊田家の御曹司として育てられてきた章男氏には衝撃的な一言だった。

 後年になって章男氏は当時を「僕に寄って来るのは揉み手の人ばかりだったから、あの言葉は逆にうれしかった」と振り返っている。

 章男氏を烈火の如く叱り飛ばしたのが、70歳という年齢ながら現在、副社長の席に座る小林耕士氏なのである。

 この小林氏に全幅の信頼を置く章男氏は、息子の大輔氏に自分と同じような側近的な人間が現われることも期待しているようだ。そのために、販売店や投資家向けの大きなイベントなどの準備作業などにも積極的に関与させては、会社の「大きな流れ」を学ばせようとしている。

 10年前、ようやく社長に就任した章男氏を待っていたのは試練の連続だった。

 リーマンショックを受け会社は71年ぶりに赤字決算に転落する憂き目に遭う。翌年には世界規模でのリコールが発生。世界的にかつてないほどの、“トヨタ・バッシング”を受ける。それに留まらず、章男氏は米議会の公聴会に呼ばれ、さらし者にもされる。さらにその翌年には東日本大震災にも見舞われ一時は全工場操業停止にも追い込まれてしまう。

 その頃だった。章男氏がかつて側近だったある人物にこう弱音を吐く一方で自問自答していたのは──。“果たして自分がトヨタを率いて行ける資質があるのだろうか”と。

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