大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

頻繁に開催される国際会議、「“独裁者”ばかりで何も決まらない」と大前研一氏

国際会議で何も決まらないのはなぜか(イラスト/井川泰年)

国際会議で何も決まらないのはなぜか(イラスト/井川泰年)

 先日、大阪でG20サミットが開催されたばかりだが、それに限らず国際会議のニュースは少なくない。経営コンサルタントの大前研一氏が、頻繁に開催される国際会議の意義について考察する。

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 地球規模の問題を解決するためには、「賢者(オンブズマン)」と呼ぶにふさわしい政治家や学者が知恵を絞ってビジョンとアジェンダ(検討課題)を作り、それに基づいた冷静で客観的な議論を重ねて結論を導き出す仕組みが必要である。その見本は、EU(欧州連合)の形成過程だ。

 EUは、フランスのジスカール・デスタン大統領やミッテラン大統領、西ドイツのシュミット首相やコール首相といった構想力のある知恵者が、二度と戦争が起きないヨーロッパを作ろうというビジョンに基づいて主導した。また、イタリア人経済学者パオロ・チェッキーニ氏が、市場統合の障害となる約260ものルールを具体的に指摘した『チェッキーニ・レポート』をまとめ、EUはその高いハードルを乗り越えてマーストリヒト条約により単一市場となった。

 そして、さらに次の段階として通貨統合を進め、1999年に単一通貨ユーロが誕生したのである。ミッテラン大統領の顧問を務めたジャック・アタリ氏らの賢者も大きな役割を果たしている。

 あるいは、アメリカのブッシュ大統領(父)は「アラスカからフエゴ島まで」という南北アメリカ経済圏のコンセプトを提唱し、それがNAFTA(北米自由貿易協定)の形成につながった。つまり、従来の国民国家を超越する仕組みを作るためには、構想力とリーダーシップがある英明な政治家とそれを理論的に支える識者が必要なのだ。

 しかし、そういう「賢者」が、今の世界には見当たらないのである。それどころか、トランプ大統領に至ってはNAFTAからの脱退を表明した。結局、脱退したらアメリカ経済が打撃を受けるだけだと分かり、新協定「USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)」の合意に方向転換したが、実質的にはNAFTAの名称から英語の自由貿易(FT)という言葉を抜いただけであり、要は他人が作ったNAFTAが嫌いだったにすぎないのだろう。そういう幼稚な遊びを諌める識者も政治家もいないのだ。

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