田代尚機のチャイナ・リサーチ

アメリカが人民元安を止められない理由

 チャートにしてみると、2018年5月下旬から、1ドル=6.9元あたりにはっきりとした支持ラインのようなものがあり、その水準で中国人民銀行は人民元安が進まないように基準値を意図的に設定しているとみられる。

 その1ドル=6.9元を超えたのは8月5日である。この日はトランプ大統領が中国を為替操作国に指定した日に当たる。

 厳密に言えば、時差があるため、人民元が1ドル=6.9元を超えたのが先で、その後にトランプ大統領の政策発表が後追いしたかたちだ。必ずしも、アメリカの政策に対応して中国が人民元安で対抗しようとしているといったことではないのかもしれない。もっと積極的に中国人民銀行が人民元安攻勢をかけているのかもしれない。

 いずれにしても、中国がどのような説明をしようとも、中国は意図的に人民元対ドルレートを人民元安方向に進めようとしている。FOMC(連邦公開市場委員会)は7月31日に利下げを発表、トランプ大統領はツイッターなどを通じて、FRB(連邦準備制度理事会)に対して継続的に利下げするよう圧力を加えており、ドル安が自然な流れとみられる中でのドル高・人民元安の進展である。

 アメリカは中国を為替操作国に認定したが、果たしてアメリカは人民元為替市場をコントロールできるだろうか。

 国内の銀行間取引市場はここで示したように、仕組みの上で、中国人民銀行がコントロールすることが可能な市場となっている。その上に、主要な市場参加者は、国内の国有商業銀行である。彼らの筆頭株主は財政部であったり、中央系投資集団であったり、地方政府であったりという違いはあるものの、共産党がそれらを指導・支配している点に変わりはない。経営陣はほぼ漏れなく共産党員であり、彼らが、共産党の方針に反した外貨の売り買いなど、需要がどうあれ、支持するはずはない。アメリカを含め海外勢が市場を操作して為替レートを上下させることは、到底不可能である。

 為替レートには香港においてオフショア人民元市場があり、こちらでは海外勢が自由に投機を行うことができるが、中国人民銀行やその意思を汲む国内金融機関が市場参加者として存在する。また、オンショア、オフショアの境界が強固であり、裁定を働かせることが難しい。こうした状況でも海外の投機勢はこれまで、果敢に、幾度となく投機を仕掛けてきたが、ことごとく打ちのめされてきたという歴史がある。

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