大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

トヨタの「スマートシティ構想」がスマートではない理由

 現実の道路では、ブレーキとアクセルの踏み間違い、信号無視、飲酒運転、逆走、後ろから極度に車間距離を詰めるあおり運転、わざと低速走行をして後続車に迷惑をかける逆あおり運転など、様々な出来事が起きる。しかし、そういう想定外の事態にどう対応すればよいのか、という実験は、モデル都市ではなく生臭い現実の都市でなければできない。エンジニアが考えうる想定外、つまり「プログラミングされた想定外」は、想定外ではないからだ。

 同様の疑問は、シェアリングについても言える。

 トヨタはアメリカなどで普及しているウーバーのような「相乗り」を想定しているのかもしれないが、「Woven City」に移住してくる人々はトヨタの従業員やプロジェクトの関係者だから、そこでの生活は基本的に向こう三軒両隣が仲良しの“理想型”に近いものになると予想される。その場合、近所の人たちと1台の車に相乗りすることに、さほど抵抗はないだろう。

 だが、現実の都市では隣人と不仲だったり、近所と付き合いがなかったりするし、他人との相乗り自体を拒否する人も少なくない。だから、ボストンのローガン国際空港などでの実証実験では、同じ方向に行く人を見つけるマッチングが意外と難しいことがわかっている。そうしたことも想定できなければ、リアルな環境とは言えない。

 さらにMaaSで公共交通機関と自動運転を組み合わせると、メインの移動手段はバスや電車になるから、東京や大阪の都心部と同じように自家用車はどんどん不要になる。

 MaaSやCASEが進展して次のフェーズに行けば、自動運転のバスやタクシーが指定した時間に自宅まで迎えにきて、最寄り駅や会社や学校などの目的地まで運んでくれる。そうなると、街を走っている自動車の台数は、おそらく現在の10分の1くらいになると思う。余資が山ほどあるトヨタが何をしても屋台骨はすぐには揺らがないだろうが、「Woven City」を建設するよりも、その未来に備えてリストラや事業転換を真剣に考えることのほうが豊田社長の優先順位ではないだろうか。

●おおまえ・けんいち/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は小学館新書『経済を読む力「2020年代」を生き抜く新常識』。ほかに『日本の論点』シリーズ等、著書多数。

※週刊ポスト2020年3月13日号

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