真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

「投資の神様」の逆張りを狙う投資家たちの「コントロールへの欲求」

 それを考える視点の一つとして、「コントロールへの欲求」と言われる行動ファイナンスの理論がある。私たちは、周囲の環境に対して自分が能動的に影響を与え、自らに好ましい状況を生み出していると思いたい。とりわけ、株式投資で成功した投資家などは、そうしたコントロールへの欲求を強く持ちやすい。言い換えれば、過去の成功体験に浸り「自分の投資手法は間違いなく勝てる」と過信してしまうのだ。

バフェット氏の変節

 バフェット氏の投資行動を見ていると、環境の変化に対応しているところはさすがだが、自らの投資手法の有効性にそれなりのこだわりを持ち続けていることも窺える。例えば、IT先端企業への投資がそうだ。1995年から2000年に起きた米国でIT関連企業の株価が大きく上昇する「ITバブル」が起きた際、バフェット氏は“〇〇ドット・コム”と名のつくような企業には決して手を出さなかった。その理由は、企業のビジネスモデルに不安があり、長期の存続力に自信が持てなかったからだ。2000年9月にITバブルは崩壊し、その判断の正しさは証明された。

 だがバフェット氏は、2008年のリーマン・ショックの後も、アップルを始めとする米IT先端企業のイノベーションの力を過小評価した。「自分が分かるものだけに投資する」彼にとって、「IT企業はよく分からない」という考えから脱却できず、その後の米国巨大IT企業の圧倒的成長への対応が遅れたのだ。彼がGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)の一角であるアップル株を購入し始めたのは2016年のこと。2019年に入ってようやくアマゾン株も取得し、IT先端企業の株式保有を増やしていった。

 もし、バフェット氏がIT先端企業の成長性にいち早く気付いていたなら、もっと早いタイミングでアップル株などに投資したはずだ。しかし、実際にはそうしなかった。ということは、バフェット氏といえども、実績を重ねてきた投資手法を虚心坦懐に見直すことは容易ではなく、「コントロールへの欲求」に影響されていたと言えるだろう。その結果、近年のバフェット氏は、高値圏が続くナスダック上場銘柄の株価上昇につられて上昇局面で株を買い増すという、従来とは異なる投資行動が目立ち始めている。

 バフェット氏が相場の上昇局面でアップルやアマゾンに投資したことについて、世界の主要な投資家は“バフェット氏の変節”と捉えている。それを受けて、「バフェット流の投資手法が上手く機能しない可能性が高まった」と解釈する投資家が増えたのだ。バフェット氏が金鉱株に投資したタイミングで、高値圏で金を手放す心理も理解できる。

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