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宮内義彦氏の菅政権への提言 「BI検討を」「法人税下げる必要ない」

今、法人税を下げる必要はない

──具体的にどうするべき?

宮内:昨年春に「特別定額給付金」として全国民に一律10万円を給付したことは評価しています。「貯金に回っただけ」との批判もあるが、もしそうだとすれば「一度しかもらえない」と考えてしまうからです。来月も支給されるとなればもっと消費に回る。日本は今後、需要を上げていくためにも、毎月、政府が全国民に無条件で一定額を支給するベーシックインカム(以下、BI)の制度を取り入れてみるべきだと思います。

──BIを導入すれば年金や健康保険制度の廃止につながるという指摘もある。

宮内:もちろん社会保障をすべてBIに置き換えるのは乱暴な話でしょう。しかしひとつひとつ丁寧に検証していけば現状の制度で必要なものは残していけるはず。

 少し前、竹中平蔵さんがBIを提言して批判も浴びましたが、こういった議論は「オール・オア・ナッシング」では駄目なのです。海外では試験的にBIが導入され、一定の効果をあげている国もある。十分に検討に値するテーマです。

──他に菅政権に求めることは?

宮内:政府は平成30年間の経済政策の全面的見直しを行なうべきです。先ほど申し上げたように、需要を上げていくことしか道は残されていない。

 たとえばマイナス金利を見直す。企業が投資のためにカネを調達しやすくするのがマイナス金利の狙いでしょうが、そもそも企業に新規投資の意欲がないのだから意味はない。現在、個人金融資産は1900兆円あると言われますが、1%の預金金利で19兆円、3%なら57兆円の金利が発生します。もちろん連動して住宅ローンの金利なども上がりますが、それらを差し引きしても個人所得は増えると見ています。当然、需要は上がるでしょう。マイナス金利は窮余の策としか言いようがない。

 法人税を今下げる必要もない。企業が利益を投資に回さず内部留保として貯め込んでいるのに、さらに法人税を下げても新規投資には回らないですから。先に言ったように、「供給側」の視点に立った経済政策はほとんど上手くいっていないのです。

 一昨年、10%にアップした消費税も30年前の発想です。ヨーロッパでは消費増税の結果、低所得層の負担が増し、貧富の格差が拡大した。今頃それに倣って消費税を上げるのは違うのではないか。

 菅政権にお願いしたいことは山ほどあります。コロナを奇貨として、日本はこれから大きく変わっていくべきですね。菅さんにはそれを先導し日本を活力ある社会にしていただきたい。

【プロフィール】
宮内義彦(みやうち・よしひこ)/1935年神戸市生まれ。1960年に米ワシントン大学経営学部大学院でMBA取得後、日綿実業(現双日)入社。1964年オリエント・リース(現オリックス)入社。1980年代表取締役社長・グループCEO(最高経営責任者)、2000年代表取締役会長・グループCEO。2014年から現職。政府の総合規制改革会議議長や経済同友会副代表幹事なども務めた。

【聞き手】
河野圭祐(かわの・けいすけ)/1963年、静岡県生まれ。経済誌編集長を経て、2018年4月よりフリーとして活動。流通、食品、ホテル、不動産など幅広く取材。

※週刊ポスト2020年1月15・22日号

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