ところが入居から2か月もたたないうちに、母が老人ホームを抜け出して僕の家に来てしまった。
母は『隣の部屋の人が騒がしくてたまらない』『スタッフにひどい扱いを受けている』と文句を言うので、翌日、妻と一緒に老人ホームを訪ね、改善を求めました。しかし、調べてみるとそんな事実はなく、母に『ひどいスタッフはどの人?』と聞いても『なんのこと?』と素知らぬ顔をするんです」(千葉県在住の50代男性)
ホーム側に早とちりを詫びたものの、一件落着とはいかなかった。数日後、母親が再び抜け出したのだ。
「母は『とにかくあのホームにはいたくない』の一点張り。私が戻るように説得すると『お前は私を捨てるのか』と言われてしまいました。その後も私が訪ねていくたびに、母はポロポロ涙を流しながら『ここにはいたくない』と繰り返す。自分は最後の最後に親不孝をしてしまったのかと思い悩む日々です」(同前)
マンションにしろ同居にしろ、老人ホームにしろ、住み慣れた自宅を一度手放してしまったら、もう元には戻れないことを覚悟しておかなければならない。
※週刊ポスト2021年5月21日号