田代尚機のチャイナ・リサーチ

中国の配車アプリ「滴滴」配信停止措置から見える米中両国の意地

企業、投資家、政府がステークホルダー同士

 滴滴出行の成長は中国のイノベーションに繋がる。中国政府にとっても滴滴出行の成長は望ましい。

 滴滴出行の事業の核となるのはタクシーを呼ぶためのアプリである。事業開始直後、アプリを利用してもらう運転手を探すために北京のタクシー会社をほぼ隈なく訪問したそうだが相手にされず、ようやく紹介してもらえる会社を見つけたものの、今度は運転手から信用してもらえず苦労したそうだ。

 しかし、創業直後から得た巨額の資金を運転手への手当、利用者への優待措置などにふんだんに使うことで短期間に急速にアプリを普及させることができた。

 タクシー会社、その背後にいる地方政府は一部で利害が対立しただろう。既得権益者からの成長妨害、地方政府の定める規制による成長抑制があってもおかしくない。厳密に言えば、滴滴出行は公正な競争を妨げ、独占禁止法などの既存の法律に触れていた可能性が高い。しかし、違法行為に問われなかったのは、共産党がイノベーションを重視するといった大方針を掲げているところが大きい。

 テンセントにしても、中国平安保険、アリババグループにしても、中国企業ではあるが、香港、もしくはアメリカ市場に上場する企業であり、グローバル投資家が支える企業である。

 つまり、滴滴出行とグローバル企業、投資家、さらには引受業務やブローカレッジ業務を手掛けるグローバル投資銀行、それに中国政府は、巨大な利益共同体であり、ステークホルダー同士なのである。

中国政府と企業の結びつきを海外投資家が懸念

 しかし、アメリカ政府はこうした彼らの関係を崩そうとしている。

 アメリカ政府は昨年12月、外国企業説明責任法を成立させた。アメリカに上場する中国企業に対する監査を強化することで、顧客データを含めた企業データへのアクセスを要求できる仕組みを構築しようとしている。

 これでは、中国政府はアメリカ上場企業への情報管理規制を強化せざるを得ない。また、中国企業の海外上場を抑制せざるを得ない。

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